将棋界の頂点を極めた藤井聡太の名言48選を時系列で紹介。9歳の奨励会入会から史上初の八冠独占まで、記録の裏に語られた言葉を出典つきで解説。努力・成長・挑戦のヒントが見つかります。
大きな挑戦を前に足がすくむとき、努力が報われない夜に心が折れそうになるとき、支えになる言葉が一つあるだけで、人は前を向けるものです。この記事では、将棋界の頂点を極めてなお歩みを止めない棋士、藤井聡太の名言48選を紹介します。史上最年少でのプロ入りから八冠独占まで、数々の記録の裏で語られてきた言葉には、華やかさよりもむしろ、静かで誠実な強さが宿っています。
藤井聡太の言葉の特徴は、勝利の高揚ではなく、現実を直視する冷静さと、限界を自分で決めない姿勢にあります。連勝が止まった日も、タイトルを失った日も、その口から出るのは嘆きではなく、次の一手への意志でした。だからこそ彼の言葉は、勝負の世界に生きる人だけでなく、日々の仕事や人生に向き合うわたしたちの胸にも届きます。
今回は、小学生時代の発言から最新のインタビューまで、出典の確かな48の言葉を時系列で集めました。気になった一つだけでも、今日のあなたの一手につながれば幸いです。
藤井聡太とはどんな人物か
2002年、愛知県瀬戸市生まれの将棋棋士。5歳で将棋を覚え、2016年に14歳2か月で四段昇段。加藤一二三九段の記録を62年ぶりに塗り替える史上最年少プロとなりました。デビューから公式戦29連勝という前人未踏の記録を打ち立て、2020年に最年少タイトル、2023年には最年少名人と史上初の八冠独占を達成。その歩みは順風だけではなく、連勝の終わり、失冠という挫折も経験しています。それでも「自分で限界を決めない」姿勢を貫き、今なお成長を続ける求道者です。
藤井聡太の名言48選
名言1【藤井聡太】好きなことに夢中だった原点
将棋がいっぱい指せることがうれしい
(藤井聡太)
出典:中日新聞インタビュー(2012年9月)
2012年9月、9歳の藤井聡太はプロ棋士の養成機関である奨励会に最年少クラスで入会しました。地元紙の取材に答えたのがこの言葉です。難関を突破した誇らしさでも段位への野心でもなく、将棋を指せる時間が増えること自体を喜んだのです。5歳で将棋を覚えて以来、藤井の原動力は一貫して「指すことそのものの楽しさ」でした。心理学では、活動それ自体が報酬になる状態を内発的動機と呼び、外からの評価を目当てにした努力よりも長く続くことが知られています。仕事に慣れ、成果や評価ばかりを追いかけるうちに、夢中で手を動かしていた頃の感覚を忘れてしまうことがあります。好きだからやる、やれること自体がうれしい。そんな時間を一日の中に少しでも取り戻せたとき、続ける力は自然と湧いてきます。
名言2【藤井聡太】9歳が自己紹介カードに書いた将来の夢
名人をこす
(藤井聡太)
出典:奨励会入会時の自己紹介カード(2012年)
奨励会に入会した小学4年生の藤井聡太が、自己紹介カードの将来の夢の欄に書いたのがこの五文字でした。名人とは江戸時代から続く将棋界で最も重い称号です。9歳の子どもが屈託なく「こす」と書いた大胆さは後に大きな反響を呼び、そしてこの宣言は、2020年の最年少タイトル獲得、2023年の最年少名人位と、文字通り現実になっていきました。目標設定の研究では、困難で具体的な目標を言葉にした人ほど高い成果に到達しやすいことが示されています。大人になると、笑われることを恐れて大きな夢を口にしなくなるものです。しかし昔のノートに書いた夢を見返すと、あの頃の自分の方がよほど自由だったと気づくこともあります。根拠より先に、まず言葉を置いてみる。書かれた目標は、その日から静かに動き始めます。
名言3【藤井聡太】考えること自体を楽しむ
考えることが楽しい。終盤の際どい局面が好きです
(藤井聡太)
出典:東京新聞インタビュー(2016年9月)
プロデビューを目前に控えた2016年9月、14歳の藤井聡太が新聞社のインタビューで将棋の魅力を問われて答えた言葉です。同じ取材で趣味を聞かれ、将棋しかやっていないので答えるのが難しいと返した逸話も残っています。注目すべきは、勝つことではなく「考えること」自体を楽しいと言い切り、一手間違えれば負ける終盤の際どい局面を「好き」と表現した点です。追い詰められた状況を苦痛ではなく楽しさとして捉える感性が、その後の勝負強さを支えていきました。締め切り前の難しい仕事に向き合っているとき、不思議と頭が冴える瞬間はないでしょうか。プレッシャーの正体は、集中力が最大まで引き出されている証拠でもあります。際どい局面を面白がれたとき、仕事はただの作業から知的な挑戦へと変わります。
名言4【藤井聡太】感覚を数値で磨く学び方
序中盤は人間からすると茫洋としていてなかなか捉えづらいですけど、コンピュータは評価値という具体的な数値が出るので、活用して参考にすることでより正確な形勢判断を行えるようになると思います
(藤井聡太)
出典:将棋世界インタビュー(将棋情報局・2017年5月)
2017年5月、公式戦18連勝中の15歳が語った研究法です。序盤や中盤は人間の感覚では捉えどころがないけれど、将棋ソフトの示す評価値という数値を参考にすれば形勢判断が正確になる、という趣旨でした。「茫洋」という難しい言葉を中学生が自然に使ったことも当時話題になりましたが、本質はその学び方にあります。感覚でやってきたことを数値で客観視し、自分の判断のずれを修正していく。プロ入り前後からこの研究を続けたことが、急成長の土台になりました。仕事でも、何となくの手応えだけで進めていた業務を数字で見える化した途端、課題の輪郭がはっきりした経験を持つ人は多いはずです。掴みどころのない不安や停滞を感じたら、まず一つ数えられるものを探してみる。数値は感覚の敵ではなく、感覚を磨く道具になってくれます。
名言5【藤井聡太】自分のすべきことを見定める
将棋に巡り合えたのは運命だったのかなとは思いますし、強くなることが使命……自分のすべきことだと思います
(藤井聡太)
出典:将棋世界インタビュー(将棋情報局・2017年5月)
藤井フィーバーが社会現象となった2017年、15歳が語った言葉です。実際の発言では「使命までいくか分からないですけど」と一度ためらい、それから「自分のすべきこと」と言い直しています。断言ではなく、迷いを含んだままの誠実な言葉だった点にこそ価値があります。天職の研究では、自分の仕事を使命と感じている人ほど内側から湧く動機が強く、逆境でも粘り強いことが知られています。とはいえ、最初から使命を確信できる人などほとんどいません。気づけば長く続けていること、頼まれなくてもやってしまうことの中に、使命の種は隠れています。なぜこの仕事をしているのだろうと立ち止まる夜は、自分が何を続けてきたかを振り返る機会でもあります。巡り合わせの意味は、歩いた後にしか見えてこないものです。
名言6【藤井聡太】面白さを追求する職業意識
面白い将棋を指すことは棋士の使命
(藤井聡太)
出典:将棋世界インタビュー(将棋情報局・2017年5月)
元の発言は「コンピュータに関係なく面白い将棋を指すことは棋士の使命」。将棋ソフトが人間を上回った時代に、棋士の存在意義を問われた15歳の答えです。最善手ならソフトが示してくれる。それでも人が棋士の対局を観るのは、そこに物語と面白さがあるからです。勝率や評価値という数字では測れない価値を、藤井は職業の中心に置きました。この視点は、効率化が進むあらゆる仕事に通じます。マニュアル通りにこなすだけの仕事は、いずれ機械に置き換えられるかもしれません。しかし受け取る相手を面白がらせよう、喜ばせようとする工夫は、その人にしか出せない味になります。今日の仕事に一つだけ、自分なりの工夫を仕込んでみる。誰に気づかれなくても、その積み重ねが職業人としての誇りを育てていきます。
名言7【藤井聡太】憧れの先へ踏み出す覚悟
憧れからは抜け出さないといけないと思う
(藤井聡太)
出典:将棋世界インタビュー(将棋情報局・2017年5月)
2017年5月、当時三冠の羽生善治について問われた際の言葉です。非公式戦で羽生に勝利した後、公式戦で対局できる位置まで登りたいという文脈で語られました。仰ぎ見るだけの存在だった第一人者を、超えるべき相手として位置づけ直す。デビュー間もない少年の宣言は、6年後の八冠制覇によって現実のものとなります。心理学では、手本となる人物の存在が「自分にもできそうだ」という感覚を育てるとされる一方、いつまでも模倣にとどまると自分の力を試す機会を失うとも指摘されます。尊敬する先輩のやり方を学び尽くしたら、次は自分ならどうするかを考えてみる。憧れは出発点としては最高の燃料であり、終着点にしてはいけないものです。その線を越える瞬間を自分で決められる人だけが、先へ進んでいきます。
名言8【藤井聡太】29連勝が止まった日の平常心
連勝は、いつかは止まるものです
(藤井聡太)
出典:29連勝で連勝が止まった後の記者会見(2017年7月)
2017年7月2日、デビューから続いた連勝が29でストップしました。佐々木勇気五段(当時)に敗れた直後、大勢の報道陣を前に15歳が口にしたのがこの言葉です。歴代最多記録が途切れた瞬間にもかかわらず、嘆きも言い訳もなく、終わりを当然のこととして受け入れました。この落ち着きは、記録ではなく将棋そのものに目が向いているからこそ生まれます。心理学の受容という考え方では、変えられない事実をそのまま認めることが、心の柔軟さと回復力の土台になるとされています。順調だった仕事の流れが突然崩れたとき、すべてが終わったように感じてしまうことがあります。しかし続いていたものが止まるのは、異常事態ではなく自然なことです。止まった地点は、次の連勝が始まる地点でもあります。そう捉え直せたとき、足は前に向きます。
名言9【藤井聡太】無数の選択肢から最善手を探す
たくさんの候補手があるが、その中で最善手は一つしかない。それを探すのが面白いし、多彩な駒の特性を生かして進めるのも醍醐味の一つ
(藤井聡太)
出典:公式戦27連勝時の記者会見(2017年6月)
2017年6月、27連勝を達成した記者会見で、将棋の面白さを問われて答えた言葉です。将棋の局面には無数の候補手がありますが、理論上の最善手はただ一つ。それを探し当てる過程こそが醍醐味だと、15歳は語りました。膨大な選択肢を前に立ちすくむのではなく、正解を探すこと自体を面白がる。この姿勢の転換が、藤井の強さの核心にあります。日々の仕事や人生でも、選択肢が多いほど決断は難しくなります。どれを選んでも後悔しそうで、動けなくなる夜もあるでしょう。そんなときは、すべての選択肢を書き出し、理由を一番説明できるものに丸をつけてみてください。完璧な正解を当てることよりも、今の自分が最善と信じられる一手を選ぶこと。その繰り返しが判断力を鍛え、迷いの時間を探究の時間に変えていきます。
名言10【藤井聡太】連勝の熱狂を統計で見つめる冷静さ
今は勝敗が偏っている時期で、いずれ平均への回帰が起こるのではないかと思っています
(藤井聡太)
出典:連勝中の記者会見(2017年6月)
29連勝へ向かう熱狂のさなか、2017年6月の会見で14歳の藤井聡太が語った自己分析です。平均への回帰とは、極端な結果は長く続かず、やがて平均に近づくという統計学の概念。今の連勝を実力以上の偏りだと冷静に見立てたのです。国中が天才の快進撃に沸く中、当の本人が最も醒めた目で自分を見ていたことになります。この視点は好調時の驕りを防ぐだけでなく、不調時の支えにもなります。うまくいかない日が続くと、自分には向いていないと結論づけたくなるものです。しかし偏りはいずれ戻ります。今週の結果が悪くても、それは実力のすべてを映してはいません。調子の波を人格の評価と切り離せる人は、淡々と続けることができます。そして続けた人のところにだけ、平均そのものを押し上げる本当の実力が積み上がっていきます。
名言11【藤井聡太】一つの道を貫く人への敬意
ひとつの戦法を貫く先生の姿勢には棋士としての矜持を感じる部分がありました
(藤井聡太)
出典:対局後コメント(2017年7月)
2017年7月、順位戦で中田功七段(当時)と対局した後の言葉です。中田七段は三間飛車という一つの戦法を貫き続けることで知られる棋士。流行に合わせて戦法を乗り換えるのが合理的とされる世界で、あえて一つの道を守り続ける先輩の姿に、29連勝を達成したばかりの15歳は「矜持」を見ました。効率だけを考えれば、貫くことは不器用な選択かもしれません。それでも譲らない一線を持つ人は、周囲に静かな敬意を抱かせます。仕事でも、流行のやり方に次々と乗り換えるうちに、自分の軸が薄れていく感覚に襲われることがあります。すべてを貫く必要はありません。ただ、これだけは変えないという一点を決めておくと、変化の波の中でも自分を見失わずに済みます。その一点が、年月を経て矜持と呼べるものに育っていくのです。
名言12【藤井聡太】一局一局の積み重ねが節目になる
(通算50勝は)1局1局積み重ねた結果で、節目の数字となりました
(藤井聡太)
出典:通算50勝達成時のコメント(2017年11月)
2017年11月、15歳4か月の史上最年少で通算50勝を達成した際のコメントです。この年の藤井は29連勝で国民的な注目を浴び、記録づくめの一年を駆け抜けていました。それでも50勝という数字を「1局1局積み重ねた結果」と表現し、大記録ではなく日々の一局に目を向け続けたのです。自己効力感の研究では、小さな達成を一つずつ認識することが、自信の最も確かな源になるとされています。遠い目標だけを見ていると、今日の一歩はあまりに小さく感じられるものです。しかし節目の数字は、ある日突然やってくるのではなく、無数の一歩が静かに積み上がった先に現れます。今日やれたことを一行だけ記録してみてください。振り返ったとき、その行の連なりが、あなたにとっての50勝になっています。
名言13【藤井聡太】才能は努力で磨かれる
才能とはポテンシャルというか、努力することによって磨かれてくるものなのかなと思っています
(藤井聡太)
出典:日本将棋連盟スペシャルインタビュー(2019年9月)
2019年9月、日本将棋連盟のインタビューで語った才能論です。デビュー以来、天才という言葉で語られ続けてきた本人が、才能とは完成品ではなく、努力によって磨かれていく可能性なのだと述べました。事実、藤井の強さの背骨には、幼少期から解き続けた膨大な詰将棋という地道な積み重ねがあります。心理学者ドウェックの研究では、能力は伸ばせると信じる人の方が、能力は生まれつきと考える人よりも困難から立ち直りやすく、長期的に伸びることが示されています。自分には才能がないから、と挑戦の前に手を止めてしまうことは誰にでもあるでしょう。しかし才能が磨かれるものなら、比べるべきは他人ではなく昨日の自分だけでいいのです。今日の練習や学びが、まだ形になっていない才能を少しずつ削り出していきます。
名言14【藤井聡太】将棋の神様に願ったこと
もし将棋の神様がいるのなら、一局お手合わせお願いしたい
(藤井聡太)
出典:名古屋市でのトークイベント(2019年12月)
2019年12月、名古屋のファンイベントで、将棋の神様に一つ願いを叶えてもらえるなら何を頼むかと問われた際の答えです。勝たせてほしいでも、強くしてほしいでもなく、一局お手合わせ願いたい。恩恵ではなく対局そのものを望んだこの返答は、翌年テレビ番組でも紹介され、広く知られるようになりました。願い事の形には、その人の動機の質が表れます。藤井にとって将棋は、何かを得るための手段ではなく、それ自体が目的なのです。仕事や学びでも、報酬や評価を超えて、純粋にもっと上手くなりたい、本物に触れたいと思える領域を持つ人は強い。あなたにも、最高峰の相手と手合わせしてみたいと思える分野が一つあるでしょうか。その問いに顔が浮かぶなら、それこそが自分の進む方向を教えてくれています。
名言15【藤井聡太】始まりはただ楽しかったから
単純に楽しかったのだと思います。将棋なら年上の相手と対等に渡り合えるというのも嬉しかった。どんどん新しい手を覚えて、それまで勝てなかった相手に勝てることに、やり甲斐を感じていました
(藤井聡太)
出典:ウェブ版『Voice』インタビュー(PHP研究所・2016年11月)
2016年11月のインタビューで、将棋を始めた5歳の頃を振り返った言葉です。祖母に買ってもらった、駒の動きが矢印で示された入門用の将棋セットが出発点で、その年の秋には祖父に勝てるようになっていたといいます。年上と対等に渡り合える。新しい手を覚えれば、勝てなかった相手に勝てる。楽しさと成長の実感が繰り返し訪れる構造が、少年を将棋に没頭させました。学びの研究でも、自分の力より少しだけ難しい課題に挑み、できたという手応えを得る繰り返しが、最も深い集中と継続を生むとされています。大人になってからの学び直しが続かないのは、意志が弱いからではなく、この手応えの設計がないからかもしれません。少し難しいことに挑んで、できたら次へ。仕組みさえ作れば、夢中は何歳からでも起動します。
名言16【藤井聡太】基礎の反復が生む閃きの快感
詰将棋が自分を強くしてくれたと思っています。終盤にかけて何か筋が見えた瞬間に快感を覚えます
(藤井聡太)
出典:ウェブ版『Voice』インタビュー(PHP研究所・2016年11月)
2016年11月、自らの強さの源を問われて答えた言葉です。藤井は幼稚園の頃から詰将棋にのめり込み、小学6年生だった2015年3月には、プロ棋士も参加する詰将棋解答選手権で史上最年少の12歳で優勝。以後この大会で連覇を重ねました。解いた問題は膨大な数にのぼり、終盤で正しい手順が一瞬で見える力の土台になっています。注目したいのは、筋が見えた瞬間の快感という表現です。地道な反復は、それ自体は退屈に見えます。しかし積み重ねた先で、バラバラだった知識が突然つながり、視界が開ける瞬間が訪れる。この閃きの快感を一度知ると、学びは義務から楽しみに変わります。今取り組んでいる基礎練習が退屈に感じられるなら、それは筋が見える直前の助走の時間なのかもしれません。
名言17【藤井聡太】悔しさの矛先を自分に向ける
負けたことが許せないというより、自分の弱さを痛感させられるんです。それが純粋に悔しい
(藤井聡太)
出典:ウェブ版『Voice』インタビュー(PHP研究所・2016年11月)
2016年11月のインタビューで、負けたときの感情を問われた14歳の答えです。負け自体が許せないのではなく、自分の弱さを痛感させられることが純粋に悔しい。敗因を相手の強さや運ではなく、常に自分の内側に求める思考がここに表れています。心理学の帰属理論では、失敗の原因を自分の努力や準備といった変えられる要因に求める人ほど、次の行動が改善に向かうとされています。悔しさの矛先を外に向ければ楽になれますが、成長は止まります。内に向ければ痛いけれど、次の一手が見えてくる。仕事でミスをした夜、環境や他人のせいにしたくなる気持ちを一度止めて、自分に変えられた点を一つだけ探してみてください。悔しいと感じられること自体、もっとできるはずだと自分を信じている証拠なのです。
名言18【藤井聡太】最年少タイトルの直後に語った伸びしろ
強くなれる余地はたくさんあると思っていますので、全ては自分次第です
(藤井聡太)
出典:棋聖獲得後インタビュー(将棋情報局・2020年)
2020年7月、17歳11か月の史上最年少でタイトル棋聖を獲得した直後のインタビューで語った言葉です。約30年ぶりの最年少記録更新という快挙の直後に、まだ強くなれる余地はたくさんあると言い、その実現は全て自分次第だと結びました。結果を運や環境ではなく自分の行動に結びつける考え方は、心理学で内的統制と呼ばれ、学び続ける人に共通する特徴とされています。全ては自分次第という言葉は、一見重い責任を課すようでいて、実は希望の宣言でもあります。変えられるものが自分の手の中にあるなら、状況がどうであれ打つ手は残っているからです。もう伸びしろがないと感じる日は、伸びしろが尽きたのではなく、まだ見つけていないだけかもしれません。自分がまだやれていないことを一つ書き出したとき、次の扉が見えてきます。
名言19【藤井聡太】変化を急いで意味づけない
以前よりは手厚さを重視する将棋が増えてきた。それが進化なのか、単なる変化なのかはわからない
(藤井聡太)
出典:令和2年版将棋年鑑インタビュー(2020年)
棋聖と王位の二冠を達成した2020年、将棋年鑑のインタビューで語った言葉です。この一年で自分の将棋は駒の連携を重んじる手厚い方向に変わってきた、しかしそれが進化なのか単なる変化なのかは分からない。成長の手応えを語る場面で、あえて断定を避けました。都合よく解釈すれば進化と言い切れるところを、観察の途中だと留保する。この誠実さは、自分を見つめる解像度の高さの表れです。人は変化を急いで意味づけたがります。新しいやり方に変えた直後は特に、良くなったと信じたい気持ちが判断を曇らせるものです。しかし本当に良い変化かどうかは、時間が経たなければ分からないことも多い。今は結論を出さず、変化をただ記録して観察し続ける。その冷静な保留ができる人が、長い目で見て確かな進化をつかみます。
名言20【藤井聡太】一手一手を流れでつなぐ美学
捨て駒でも単発ではなく、ストーリーや流れがある。それが感触の良さにつながる
(藤井聡太)
出典:令和2年版将棋年鑑インタビュー(2020年)
2020年の将棋年鑑インタビューで、好きな詰将棋について語った言葉です。藤井は詰将棋を解くだけでなく自ら創作もする作り手であり、一手一手が孤立せず、流れの中で意味を持つ作品を最上とする美学を持っています。相手に取らせるために手放す捨て駒でさえ、単発の犠牲ではなく物語の一部として機能するとき、指し手に確かな手応えが生まれるというのです。この見方は日々の仕事にもそのまま重なります。目の前のタスクを一つずつこなすだけの毎日は消耗しますが、同じ作業でも、大きな流れの中のどの一手なのかが見えると意味が変わってきます。今日の地味な作業は、どんな物語の伏線でしょうか。自分の仕事を流れとして眺め直したとき、捨て駒に見えた一日が、実は欠かせない一手だったと気づくことがあります。
名言21【藤井聡太】閉塞感を破った新しい学び方
当時は奨励会に入ってからいちばん実力が伸びた時期だったかもしれません。AIで研究を始めたのは一つ大きな変化
(藤井聡太)
出典:書籍『挑戦 常識のブレーキを外せ』(山中伸弥・藤井聡太、講談社)
ノーベル賞受賞者の山中伸弥氏との対談で、奨励会三段時代を振り返った言葉です。当時の藤井は初段や二段の頃に伸び悩みを感じており、その閉塞感を破ったのが将棋ソフトを使った研究でした。ソフトの評価値と自分の判断を突き合わせることで、序盤や中盤の認識の甘さが可視化され、修正のたびに力が伸びていく。本人が奨励会時代で一番実力が伸びた時期と振り返るほどの転換点です。行き詰まりを感じたとき、人は今までのやり方をさらに頑張ろうとしがちですが、突破口は努力量ではなく方法の転換にあることも多いのです。新しい道具や学び方を試すのに、遅すぎるということはありません。今のやり方に限界を感じているなら、気になっていた新しい手法を一つ、まず15分だけ触ってみる。後から振り返れば、その日が転機だったと語れるかもしれません。
名言22【藤井聡太】際どい局面に踏み込む自分を知る
きわどいところを踏み込んでいくのは自分の特徴かなという気がします
(藤井聡太)
出典:書籍『挑戦 常識のブレーキを外せ』(山中伸弥・藤井聡太、講談社)
山中伸弥氏との対談で、自らの棋風を分析した言葉です。一手間違えれば形勢が逆転する際どい局面でも、正しいと読んだ手であれば恐れず踏み込む。幼少期から詰将棋で鍛え抜いた終盤の読みへの信頼が、この踏み込みを支えています。無謀な賭けではなく、積み上げた技術に裏打ちされた勇気だという点が重要です。さらに注目したいのは、自分の特徴を本人が言葉で把握していることです。自分の強みがどんな場面で発揮されるかを知っている人は、勝負所で迷いません。安全策と挑戦策の間で揺れたとき、いつも無難な方を選んでしまうと悔いが残ります。まずは自分がどんな場面で力を発揮してきたかを書き出してみてください。特徴は生まれつきのものではなく、意識して使ううちに研ぎ澄まされていくものです。
名言23【藤井聡太】道具とともに人間は強くなれる
これからはコンピュータを活用することで、逆に人間がどんどん強くなっていくという段階に入っていく気がします
(藤井聡太)
出典:書籍『挑戦 常識のブレーキを外せ』(山中伸弥・藤井聡太、講談社)
山中伸弥氏との対談で語った、技術と人間の関係についての展望です。将棋ソフトが人間を超えたとき、世間は棋士の敗北と報じました。しかし藤井は、コンピュータを活用することで逆に人間が強くなる段階が始まると捉えたのです。実際、本人が奨励会時代にソフト研究で急成長した経験が、この確信の土台にあります。道具に仕事を奪われるという不安の物語を、道具によって自分を拡張する物語へ書き換えたと言えるでしょう。人工知能の進化に不安を覚える今の時代にこそ、この視点は効きます。新しい技術を脅威と見るか、成長の相棒と見るかで、その後の伸び方はまるで変わります。今日、任せられる作業を一つ道具に預けてみて、空いた時間で自分にしかできない思考に取り組んでみる。人間が強くなる段階は、もう始まっています。
名言24【藤井聡太】支えられて成長したという自覚
自分の強くなりたいという気持ちを周りの方たちが常にサポートしてくれたというのが、成長できたいちばん大きな要因だった
(藤井聡太)
出典:書籍『挑戦 常識のブレーキを外せ』(山中伸弥・藤井聡太、講談社)
山中伸弥氏との対談で、成長できた一番の要因を問われた際の答えです。挙げたのは才能でも努力量でもなく、強くなりたいという気持ちを支え続けてくれた周囲の存在でした。小学4年生から師事する杉本昌隆八段は、弟子の意思を尊重して見守る師として知られ、家族もまた将棋に打ち込める環境を整え続けました。本人の言葉を借りれば、気持ちそのものを支えてもらえたことが大きかったのです。意欲は個人の内側だけで維持できるものではなく、それを肯定してくれる人の存在によって育ちます。振り返れば、自分が頑張れた時期には、信じてくれる誰かがいたはずです。感謝を言葉にすると、支えられてきた事実が輪郭を持ち、それ自体が次の力になります。今日、世話になった人に一言だけ伝えてみる。強くなりたい気持ちは、独りでは燃え続けません。
名言25【藤井聡太】座右の銘・無極に込めた信念
無極という2文字が刻まれており、どこまでいっても極まることがない、果てがない、頂点がないという意味で、どこまでも成長したい、自分で限界を決めないと思って大切にしています
(藤井聡太)
出典:書籍『挑戦 常識のブレーキを外せ』(山中伸弥・藤井聡太、講談社)
2016年のプロ入りの際、知人から贈られた印に刻まれていたのが無極の二文字でした。どこまで行っても極まることがなく、果てがなく、頂点がない。藤井はこの言葉を、どこまでも成長したい、自分で限界を決めないという信念の象徴として大切にしていると、山中伸弥氏との対談で明かしています。八冠を制した後もこの姿勢が変わらないのは、目指すものが頂点ではなく、終わりのない道そのものだからでしょう。限界は多くの場合、能力ではなく言葉が先に作ります。もう歳だから、自分にはこの辺が限界だから。そうつぶやいた瞬間に、可能性の探索は止まってしまうのです。決めつけを一つ手放して、この先に何があるだろうと問いの形に変えてみる。問いを持ち続ける人の前には、道はまだ果てなく続いています。
名言26【藤井聡太】記録より自分自身の成長を測る
数字とか記録よりも『自分自身として、より強くなりたい』という気持ちが強い
(藤井聡太)
出典:書籍『挑戦 常識のブレーキを外せ』(山中伸弥・藤井聡太、講談社)
山中伸弥氏との対談で、将来のビジョンを問われた際の言葉です。当時すでに最年少記録を次々に塗り替えてきた本人が、数字や記録への関心よりも、自分自身としてより強くなりたい気持ちの方が強いと語りました。他人との比較や順位という外の物差しではなく、昨日の自分より強いかという内の物差しで自分を測る。この軸の置き方は、記録が伸びない時期にも心を折らせません。外の数字は相手や運にも左右されますが、内側の成長は裏切らないからです。今月の売上や評価に一喜一憂して疲れてしまう夜は、物差しを一度持ち替えてみるといいかもしれません。先月の自分より、何か一つでも深く知れたか、上手くなれたか。そこに一つでも丸がつくなら、その日々は確かに前へ進んでいます。
名言27【藤井聡太】強くなった者にしか見えない景色
強くならなければ見えない景色は確実にあると思うので、そうした景色を見るところまで行きたい
(藤井聡太)
出典:書籍『挑戦 常識のブレーキを外せ』(山中伸弥・藤井聡太、講談社)
山中伸弥氏との対談で語った、成長の先への憧憬です。今の実力では認識すらできない将棋の深みが確かに存在する、そこまで行って景色を見たい。タイトルの数ではなく、認識の地平が広がること自体を目標に置いた言葉です。学びの世界には、力がつくほど、以前は見えなかった課題や面白さが見えてくるという構造があります。登った人にしか見えない景色があるからこそ、探究には終わりがないのです。この感覚は仕事でも同じで、技術が一段上がると、同じ現場がまるで違って見えた経験を持つ人もいるでしょう。今日理解できないこと、歯が立たないことは、無縁の世界なのではなく、まだ届いていないだけの景色です。少し難しい本や課題に10分だけ触れてみる。一歩分登れば、一歩分の景色は必ず見えてきます。
名言28【藤井聡太】全力同士の理想の勝負
中途半端な読みで指さずに、お互いに厳しい手を指し合って、そのうえで形勢の均衡がとれた局面が長く続く対局が理想的
(藤井聡太)
出典:書籍『挑戦 常識のブレーキを外せ』(山中伸弥・藤井聡太、講談社)
山中伸弥氏との対談で、理想の対局像を問われた際の答えです。互いに中途半端な読みの手を排し、厳しい最善手をぶつけ合いながら、それでも均衡が崩れない勝負。勝ちやすさよりも、双方が全力を尽くした末の緊張状態を理想としました。楽に勝つことではなく、質の高い戦いそのものに価値を置く将棋観です。この基準は、日々の仕事の質を測り直す物差しにもなります。これくらいでいいかと手を緩めた仕事は、通ったとしてもどこか手応えが残りません。逆に、考え抜いて出した成果物は、結果がどうであれ自分の中に蓄積されます。相手や課題に対して、ここまで考えたと言い切れる仕事が今週いくつあったでしょうか。全力を尽くす習慣は、結果を超えて、仕事への信頼と誇りを静かに育てていきます。
名言29【藤井聡太】五冠でもまだ森林限界の手前
将棋はとても奥が深いゲームで、どこが頂上なのかは全く見えない。いまだ頂上が見えない意味では森林限界の手前。まだまだ上の方には行けてないと思います
(藤井聡太)
出典:五冠達成一夜明け記者会見(2022年2月)
2022年2月、19歳で史上最年少の五冠を達成した翌日の会見での言葉です。今の到達点は富士山なら何合目かと問われ、木が育たなくなる標高を指す登山用語を引いて、まだ森林限界の手前と答えました。頂上はまだ見えないという謙虚さと語彙の妙が重なり、この表現はインターネット上で大きな話題となりました。興味深いのは、優れた人ほど自分の知らないことの広さを認識するという心理学の知見と、この発言が重なる点です。五冠の高みからは、素人には見えない将棋の奥深さが見えている。だからこそ、まだ途中だと言えるのです。成果を出した後に、自分はまだまだだと感じるのは、卑下ではなく視野が広がった証拠です。頂上が見えないうちは、上に道が続いているということ。その感覚は、歩き続ける人だけが持てる特権です。
名言30【藤井聡太】考え方が増えることが原動力
今までとは違う新しい手筋、新しい指し方を知ることができた時が楽しいです。自分の考え方がどんどん増えていくことがモチベーションになっています
(藤井聡太)
出典:公文教育研究会公式インタビュー(2023年2月)
2023年2月、幼少期に学んだ縁のある公文教育研究会のインタビューで、現在の原動力を問われた際の答えです。タイトルの数でも勝率でもなく、新しい手筋や指し方を知り、自分の考え方が増えていくこと自体が動機だと語りました。勝敗は相手のあることですが、発見は毎日積み重ねられます。この動機の置き方こそ、二十年近い将棋人生を飽きさせない秘密でしょう。学びの研究でも、知識が増えること自体に喜びを感じる人は、成果の波に動機を左右されにくいとされています。結果が出なかった日を、無駄な一日と切り捨てるのはもったいない。今日知らなかったことを一つ知れたなら、その日は確かに前進の日です。帰り道に、今日増えた考え方を一つ思い出してみる。その習慣が、続ける力の一番深い燃料になります。
名言31【藤井聡太】終点を決めずに一歩ずつ登る
強くなる余地というのはまだすごくたくさんあります。具体的にどこまでということはなくて、可能性のある限りという感じです。一歩ずつ上を目指していきたい気持ちです
(藤井聡太)
出典:公文教育研究会公式インタビュー(2023年2月)
同じ2023年2月のインタビューで、強さの上限を問われた際の言葉です。八冠へ王手をかけようとしていた時期にもかかわらず、強くなる余地はまだたくさんあると言い、具体的な到達点は決めず、可能性のある限り一歩ずつ上を目指すと語りました。ゴールを固定しない目標観は、一見頼りなく見えて、実は息の長い成長に向いています。到達点を決めると、達した瞬間に動機が失われ、届かないと分かった瞬間に心が折れるからです。対して、一歩ずつという刻み方は、今日の一歩に集中させてくれます。大きな目標に圧倒されて動けない日は、目標を今日できる一つの行動まで小さく砕いてみてください。一歩の積み重ねしか、遠くへ行く方法はありません。そして一歩なら、今日の自分にも必ず踏み出せます。
名言32【藤井聡太】結果より過程に目を向ける
結果はコントロールできるわけではないので、結果そのものを意識しすぎるとモチベーションの維持が難しくなります
(藤井聡太)
出典:公文教育研究会公式インタビュー(2023年2月)
2023年2月のインタビューで、モチベーションの保ち方について語った言葉です。勝敗という結果は相手や状況にも左右され、完全には制御できません。だから結果そのものを意識しすぎると、動機の維持が難しくなる。八冠を目前にした棋士の言葉としては意外なほど、結果への執着から距離を置いた考え方です。代わりに藤井が目を向けるのは、新しい発見という、自分で積み重ねられる過程でした。この整理は、成果への焦りで苦しくなったときの処方箋になります。頑張っているのに結果が出ない時期は誰にでもあり、そこで結果だけを見つめると心がすり減っていきます。今夜は結果ではなく、今日やったことを三つ書き出して一日を閉じてみてください。コントロールできることに集中する技術こそ、長く走り続ける人の共通点です。
名言33【藤井聡太】解釈が分かれることを面白がる
指し将棋においては観る人によってどういうふうに解釈するか変わってくるところは面白い部分かなと思います
(藤井聡太)
出典:令和5年版将棋年鑑インタビュー(2023年)
令和5年版将棋年鑑のインタビューで、詰将棋と指し将棋の違いを語った言葉です。作者の意図が一つの正解として固定される詰将棋に対し、指し将棋は二人の棋士の意図が重なり合って局面が生まれるため、観る人の棋力や感性によって読み取る物語が変わります。その多義性を、詰将棋の作り手でもある藤井は面白さと呼びました。正解が一つでない世界を楽しむ感性は、日常にも持ち込めます。会議で自分と違う見方が出たとき、どちらが正しいかと構えるのではなく、その人にはそう見えているのかと受け取ってみる。同じ出来事も、立場が変われば別の物語になります。自分だけの解釈を持つことは欠点ではなく個性であり、違う解釈と出会うことは視野の拡張です。多様な読みが重なる場所にこそ、豊かさは生まれます。
名言34【藤井聡太】史上最年少名人が語った称号の重み
名人という立場は本当に重いものです。自分がそういう位置に到達できたとは思えないところがあるんですけど、名人という言葉にふさわしい将棋を、という気持ちが一番強いです
(藤井聡太)
出典:名人戦第5局終局後会見(2023年6月)
2023年6月、渡辺明名人を破り、20歳10か月の史上最年少で名人位に就いた直後の会見での言葉です。谷川浩司十七世名人が持っていた最年少記録を約40年ぶりに塗り替える偉業でしたが、藤井は喜びよりも先に、江戸時代から続く称号の重さと、自分がそこに到達できたとは思えない実感を語り、名人にふさわしい将棋をと結びました。肩書に浮かれるのではなく、肩書との差分を埋めようとする。この向き合い方は、昇進や抜擢を経験した人の胸にも響くはずです。自分にはまだ早いのではという不安は、弱さではなく、その役割を軽んじていない誠実さの表れです。ふさわしくあろうとする意志こそが人を育てます。役割が先に来て、実力が後から追いつく。その順番で、人は大きくなっていくのです。
名言35【藤井聡太】八冠達成の日に語った課題
実力がまだまだ足りないということも変わらず感じています。地位に見合った実力をつけられるように、より一層取り組んでいかなければ
(藤井聡太)
出典:八冠達成記者会見(2023年10月)
2023年10月11日、永瀬拓矢王座を破り、史上初の八冠独占を達成した当日の会見での言葉です。将棋界のタイトルすべてを一人で保持するという前人未踏の頂に立った瞬間、語られたのは達成感ではなく、実力がまだ足りないという課題認識でした。実際このシリーズは際どい将棋が続いており、内容への不満が本人の偽らざる実感だったのでしょう。地位は結果として与えられますが、実力は自分で積むしかありません。その差分を直視する姿勢が、頂点に立った後の停滞を防いでいます。大きな成果を出した直後こそ、人は緩みます。称賛に包まれる時期に、次の課題を静かに見つめられるかどうかで、その後の伸びは分かれるのです。成功の夜にこそ、伸ばしたいことを一つ書き留めてみる。それが、頂上を通過点に変える方法です。
名言36【藤井聡太】夢中になれるものが人生を連れていく
5歳の時から、ずっと将棋に取り組んでいくことでいろんな経験ができた。好きなこと、夢中になることを見つけてほしい
(藤井聡太)
出典:名古屋凱旋記者会見(2023年10月)
八冠達成の二日後、2023年10月13日に地元名古屋で開かれた凱旋会見で、子どもたちへのメッセージを求められた際の言葉です。5歳の時に祖父母のもとで出会った入門用の将棋セットから、すべては始まりました。特別な英才教育ではなく、夢中という自然な引力が16年間の歩みを支えたことを、本人が一番よく知っているのです。夢中は探して見つけるものというより、気づいたらそこにいたと後から分かるもの。だから、夢中になれるものがないと焦る必要はありません。手がかりなら日常に転がっています。時間を忘れて没頭していたことを、この一週間から三つ思い出してみてください。人に頼まれてもいないのにやってしまうこと。その中に、あなたの将棋盤が眠っているかもしれません。大人になってからの出会いにも、遅いということはないのです。
名言37【藤井聡太】課題の発見を成長の入り口にする
実力の一局ごとに課題が見つかる。課題に意識的に向き合って、実力を高めていけるように頑張りたい
(藤井聡太)
出典:名古屋凱旋記者会見(2023年10月)
同じ2023年10月の名古屋凱旋会見で、今後の抱負として語った言葉です。八冠を独占した直後でさえ、一局指せば必ず課題が見つかる、それに意識的に向き合って実力を高めたいと述べました。熟達の研究では、ただ量をこなす練習ではなく、弱点を特定して意識的に取り組む練習こそが上達を分けるとされており、藤井の言葉はまさにその実践です。注目したいのは、課題が見つかることを否定的に語っていない点です。課題の発見は、欠点の露呈ではなく成長の入り口。うまくいった日にも、あの場面はもっと良くできたと振り返る人は、同じ経験から二倍学んでいます。今日の仕事を一つ振り返り、次に意識することを一行だけ書いてみてください。課題に気づけた日は、実力が一段上がる準備の整った日です。
名言38【藤井聡太】失うことを静かに受け入れる強さ
(失冠は)時間の問題だと思っていたので、これからまた頑張りたい
(藤井聡太)
出典:叡王戦敗戦後会見(2024年6月)
2024年6月、同学年の伊藤匠七段(当時)に叡王戦で敗れ、八冠独占が約8か月で崩れた直後の会見での言葉です。初めての失冠という節目に、藤井は失うことをいつかは来ることと静かに受け入れ、これからまた頑張りたいと結びました。八つすべてを守り続けることの困難を誰よりも理解していたからこその、現実を直視した言葉です。心理学では、挫折を想定外の破局ではなく織り込み済みの出来事として処理できる人ほど、回復が速いことが知られています。手にしたものは、いつか手放す局面が来ます。役職も、担当も、記録も。その必然を受け入れている人は、失った日に崩れず、次の挑戦に目を移せます。失うことを恐れて挑戦をためらうより、失ってもまた取りに行けばいいと構える。その軽やかさが、長い勝負を支えてくれるのです。
名言39【藤井聡太】人工知能を強くなるための相棒にする
AIの実力が棋士をしのぐようになった10年ほど前から活用しています。強くなるためのパートナーという感覚もありますし、知見の優れたところを自分で取り入れて実力を高めていきたいという意識で活用しています
(藤井聡太)
出典:プレジデントオンライン取材(2025年10月)
2025年10月の取材で、将棋ソフトとの関わりを問われた際の言葉です。棋士の実力を人工知能が上回るようになった10年ほど前から活用を続け、その位置づけを、強くなるための相棒と表現しました。脅威として恐れるのでも、単なる道具として使い捨てるのでもなく、共に成長する存在と捉える。優れた知見は自分の中に取り込み、実力そのものを高める材料にするという明確な意志があります。人工知能があらゆる仕事に入り込む今、この距離感は多くの人の指針になるはずです。仕事を奪われるかどうかという問いの立て方では、不安しか生まれません。これを使って自分は何を伸ばせるかと問い直した瞬間、同じ技術が味方に変わります。新しい道具を一つ選び、自分の弱点を補う使い方を試してみる。相棒は、選んだ人のもとにだけ現れます。
名言40【藤井聡太】無批判に受け取らず自分の頭で考える
AIが示す情報を無批判に受け取ってしまうと、自分自身の思考力がかえって落ちてしまうリスクもあると感じています
(藤井聡太)
出典:プレジデントオンライン取材(2025年10月)
同じ2025年10月の取材で、人工知能を活用する際の注意点として語った言葉です。示された情報を検証せずに受け取り続けると、自分自身の思考力がかえって落ちる危険がある。誰よりもソフト研究を活用してきた本人が、依存の副作用を明確に言語化した点に重みがあります。藤井は評価値を鵜呑みにせず、なぜその手が良いのかを自分の頭で考え抜くことを重視しているといいます。認知科学でも、思考を道具に委ねすぎると自力で考える力が衰えることが指摘されています。検索や生成の道具が答えらしきものを即座に返してくる時代、考える手間はどんどん省けるようになりました。だからこそ、受け取った情報に対して自分はどう思うかを一文だけ書き添える習慣が効いてきます。その小さな一手間が、思考力を守る防波堤になるのです。
名言41【藤井聡太】強い動機がなくても始めていい
奨励会に入った時点では、それほど強くプロになりたいと思っていたわけではありませんでした
(藤井聡太)
出典:将棋年鑑2026インタビュー(将棋情報局)
2026年公開の将棋年鑑インタビューで、奨励会に入った当時の心境を振り返った言葉です。研修会での実績から受験資格の一部免除を得て、その流れで受けてみようかという程度の気持ちだったと明かしました。将棋界の頂点を極めた棋士の出発点に、悲壮な決意はなかったのです。この率直な回顧は、始めることのハードルを下げてくれます。何かを始めるには強い動機や覚悟が必要だという思い込みは、多くの人の一歩を止めています。しかし動機の強さと継続の力は、必ずしも比例しません。目の前のことが好きで、続けるうちに道が開けていくことは珍しくないのです。やりたい気持ちが弱いからと諦める前に、まず小さく始めてみる。本気は、始めた後から追いついてくるものです。
名言42【藤井聡太】覚悟は後から育ってくる
当時はまだ小学4年生だったというのもありますが、なれたらいいなというくらいで、覚悟とか決意のようなものはなかったです
(藤井聡太)
出典:将棋年鑑2026インタビュー(将棋情報局)
前の言葉に続けて、将棋年鑑のインタビューで語られた回顧です。小学4年生だったこともあり、プロになれたらいいなというくらいの感覚で、覚悟や決意と呼べるものはなかったといいます。入会からわずか3か月足らずで昇級を重ねた実力の持ち主が、内面はごく普通の子どもだったと明かしたことになります。覚悟がないまま始めた道でも、日々夢中で積み重ねるうちに、気づけば誰よりも遠くまで来ていた。この順序は励みになります。人生の大きな選択を前に、覚悟が固まるまで動けない人は多いものです。しかし覚悟とは、始める前に用意する装備ではなく、歩きながら育っていく筋力のようなもの。なれたらいいな、くらいの軽さで最初の一歩を置いてみる。決意は後から、積み重ねの中で静かに形になっていきます。
名言43【藤井聡太】苦しい局面では次の一手を探す
苦しい局面って、考えたら好転するってことはないので
(藤井聡太)
出典:将棋年鑑2026インタビュー(将棋情報局)
2026年の将棋年鑑インタビューで、劣勢の局面での心構えを語った言葉です。苦しい局面は、考えたからといって良くなるわけではない。突き放したような一言ですが、続く趣旨は、苦しいなりに考える要素のある手を探し続けるというものです。なんとかなるはずという希望的観測で現実から目をそらすのではなく、悪い状況を悪いまま直視し、その中での最善を探す。数々の逆転勝ちを生んできた藤井の終盤力は、この現実直視に支えられています。行き詰まった案件を前に、考え込むだけで時間が過ぎていく夜があります。しかし状況を変えるのは、思考の量ではなく次の一手です。今夜は悩む代わりに、明日打てる小さな手を一つだけ決めて眠ってみてください。局面は、手を指した瞬間から動き始めます。
名言44【藤井聡太】制約を面白がる視点
地域的な困難を技術的に乗り越えていくところが、鉄道の面白さの1つだと思います
(藤井聡太)
出典:将棋年鑑2026インタビュー(将棋情報局)
2026年の将棋年鑑インタビューで、趣味の鉄道について語った言葉です。藤井の鉄道好きは広く知られていますが、その視点は独特です。地元周辺を走る特急が、急カーブや急勾配という厳しい地形を、車体を傾ける技術で乗り越えていく仕組みに魅力を感じるといいます。困難な条件そのものを面白さの源と見るまなざしは、際どい局面を好むという将棋への姿勢と美しく重なっています。条件が整っていればもっとできるのに、という嘆きは誰の口からも出るものです。予算がない、人が足りない、時間がない。しかし制約は、工夫を引き出す装置でもあります。制約がなければ生まれなかった名作や発明は数え切れません。今抱えている制約を一つ選び、この条件だからこそできることは何かと問い直してみる。面白さは、まっすぐな線路よりも難所にこそ宿ります。
名言45【藤井聡太】羽生善治から学んだ切り替えの速さ
対局が終わった後すぐに羽生先生が気持ちを切り替えられていたのが印象的でした。インタビューの時にはもう切り替えが終わっているようでした
(藤井聡太)
出典:令和5年版将棋年鑑インタビュー(2023年)
令和5年版将棋年鑑のインタビューで、2023年の王将戦七番勝負を振り返った言葉です。相手は将棋界の第一人者であり続けてきた羽生善治九段。藤井が防衛を果たした激闘の中で印象に残ったのは、羽生九段が敗れた対局の直後、感想を語る時点ですでに気持ちの切り替えを終えているように見えたことだったといいます。半世紀近く第一線に立ち続ける人の強さの秘密を、対戦相手の目が見抜いた瞬間です。引きずらない技術は、才能ではなく習慣です。失敗の直後に必要なのは、原因の分析と感情の反芻を切り分けること。分析は次に活きますが、反芻は消耗しか生みません。うまくいかなかった日は、振り返りを時間を区切って済ませ、残りは明日の準備に充ててみてください。切り替えの速さは、そのまま立ち直りの速さになります。
名言46【藤井聡太】長い時間軸で自分を育てる
1年間、結果も出せて自信も付きました。プロの環境に慣れてきたかなと感じています。今は強くなることがいちばん大事な時期だと思っているので、長期的なスパンで考えて強くなっていきたいと思います
(藤井聡太)
出典:『Number』942号インタビュー(文藝春秋・2017年12月)
プロ入り1年後の2017年12月、スポーツ誌のインタビューで語った言葉です。29連勝の熱狂の直後、周囲がタイトル獲得への期待を高める中で、15歳は結果を急がず、今は強くなることが一番大事な時期だと言い、長い時間軸で考える姿勢を示しました。実際にタイトル獲得は約2年半後であり、その間も土台を積む方針は揺らぎませんでした。成功体験で得た自信を、短期の成果追求ではなく長期の成長に投資する。この判断は、年齢を考えれば驚くべき成熟です。新しい環境で1年が経ち、早く結果を出したいと焦る時期は誰にでもあります。しかし土台の厚みは、後から必ず効いてきます。今は何を積む時期なのかを自分に問い、答えを一行書いてみる。時間軸を延ばした瞬間、焦りは計画に変わります。
名言47【藤井聡太】強くなった先にある深遠さ
強くなった先にある深遠さを見ていたいです
(藤井聡太)
出典:『Number』942号インタビュー(文藝春秋・2017年12月)
2017年12月、プロ1年目の15歳がスポーツ誌のインタビューで語り、記事の表題にも使われた言葉です。将棋の局面の数は天文学的で、人間はその全容を知り得ません。強くなればなるほど、それまで見えなかった奥深さが姿を現す。藤井が見つめているのは、記録でも称号でもなく、強くなった者だけが立ち入れる未知の領域でした。この動機の置き方には終わりがありません。目標を達成すれば次の深みが現れ、探究は続いていくからです。仕事や趣味でも、上達するほど面白さの解像度が上がっていく感覚を知っている人は幸福です。今の自分に見えている世界が、その分野のすべてではありません。続けた先にしか現れない深遠さがあると信じられたとき、今日の一歩は、まだ見ぬ景色への一歩に変わります。
名言48【藤井聡太】まず実力をつけるという順序
より大きな活躍をするためにも、まずはしっかり実力をつけたい
(藤井聡太)
出典:将棋世界2018年2月号インタビュー
2018年、将棋専門誌のインタビューで新年の目標を問われた際の言葉です。29連勝で全国区の存在となり、周囲がタイトル戦線での活躍を期待する中、15歳が語ったのは、より大きな活躍のためにまず実力をつけるという地味な方針でした。目的として活躍を掲げつつ、語る順序は手段である土台づくりが先。この順番に、結果を焦らない価値観が凝縮されています。そしてこの助走の日々が、後の八冠へつながる坂道になりました。認められたい、結果が欲しいという気持ちは自然なもので、消す必要はありません。ただ、評価は自分では動かせませんが、実力は今日から積めます。華やかな成果に目を奪われそうな日こそ、地力を一つ増やす作業に戻ってみる。実力という土台は裏切りません。積んだ分だけ、確かに高くなっていきます。
まとめ
48の言葉を通して見えてくるのは、天才の華やかさではなく、一人の求道者の静かな一貫性です。好きだから指す。負けたら自分の弱さと向き合う。頂点に立っても、まだ森林限界の手前だと言う。そして、覚悟がないまま始めた道でも、一歩ずつ積み重ねれば誰も見たことのない景色に届く。藤井聡太の言葉は、才能の物語ではなく、続け方の物語なのだと思います。
全部を真似する必要はありません。今日の自分に響いた一つの言葉を、手帳の隅にでも書き留めてみてください。結果はコントロールできなくても、今日の一手は自分で選べます。その小さな一手の積み重ねが、あなたにとっての「強くなった先の景色」へ続いています。