「正しくあれ」というプレッシャーが社会に満ちる今、朝井リョウの名言は静かに、それでいて深く届いてくる。
朝井リョウの名言には、人間の揺れや矛盾をそのまま肯定するような視線がある。SNSが「一貫した自分」を求め続けるこの時代に、「人間はハンドレッドスタンダードくらいのもんだ」と言い切る言葉は、どこか救いになる。
この記事では、インタビューやエッセイから厳選した朝井リョウの名言29選を、背景とともに紹介する。本と向き合うこと、書き続けること、そして揺れながら生きることへの本音の言葉を、ぜひ手元に置いてほしい。
朝井リョウとはどんな人物か
朝井リョウは1989年、岐阜県生まれの小説家。早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』でデビューし、21歳で小説すばる新人賞を受賞。2013年、『何者』で直木賞を史上最年少(23歳)で受賞した。会社員として働きながら小説を書き続けた経験を持ち、「仕事と創作の間で揺れる感覚」をリアルに描ける作家として30代からの支持が厚い。SNS社会の息苦しさや若者の承認欲求を鋭く描くエッセイ集『そして誰もゆとらなくなった』も多くの読者に支持されている。
朝井リョウの名言29選
名言1【朝井リョウ】本だけが与えてくれる「ひとり」の時間
本って、強制的に人を「ひとり」にさせるんですよね。しかも数時間。映画でもテレビでも音楽でも無理で、本だけが人を2〜3時間ひとりにさせる。
(朝井リョウ)
SNSや動画に囲まれた現代でも、本を開いた瞬間から2〜3時間は確実に「ひとり」の時間が生まれる。その強制的な孤独の中でこそ、外の評価を手放して自分の内側と向き合う本物の思索が始まるのだ。
名言2【朝井リョウ】「正しいこと」より「書きたいこと」を選ぶ
私は小説を書きたいわけであって、正しいことを書きたいわけではないんです。
(朝井リョウ)
「正解」を求めるSNS時代に、朝井は正しさより本当らしさを選び続ける。人の揺れや矛盾を丸ごと描けるのが小説の力であり、正しくあろうとした瞬間に物語は嘘をつき始めると知っているから。
名言3【朝井リョウ】「一貫して正しくあれ」という空気への違和感
小説を書いていると人間の心は流動的であることにすごく自覚的になるので、『一貫して正しくあれ』という空気が苦手です。
(朝井リョウ)
人の心はコロコロ変わる。それは弱さではなく、人間の本質だと朝井は書き続けることで体に刻んできた。「一貫した自分」を演じることに疲れたとき、この言葉はひとつの小さな息継ぎになってくれる。
名言4【朝井リョウ】意見を変えることが「重罪」になる時代への問い
今、都合よく自分の意見を変えたり、周りに合わせて適度な嘘をついたりすることが、とんでもない重罪だと捉えられている気がします。
(朝井リョウ)
SNSでは「手のひら返し」と叩かれ、場に合わせた言葉は「嘘つき」と断罪される。朝井はその空気に静かに抵抗する。状況に合わせて変わることも誠実さの一形態だという問いかけを、言葉の奥に込めて。
名言5【朝井リョウ】人間はハンドレッドスタンダード
人間はダブルどころかハンドレッドスタンダードくらいのもんだと思います。
(朝井リョウ)
「ダブルスタンダード」と批判される前に、人間とはそもそも無数の顔を持つ生き物だと朝井は言い切る。矛盾を抱えたままでいい。それが人の正直な姿だという宣言として、軽くて力強い一言がここにある。
名言6【朝井リョウ】比べることでしか、自分はわからない
人間は他人と比べないと自分のことを理解できないと思います。
(朝井リョウ)
「他者と比べるな」とよく言われるが、朝井はその逆を語る。比較は自己認識の道具であり、他者という鏡を通してしか自分の輪郭は浮かびあがらない。比べてしまう自分を、恥じなくていいという視点だ。
名言7【朝井リョウ】平成という「対立が削がれた時代」
平成は目に見える「対立」が削がれた時代なのではないか、だけど人の心自体は簡単に変わらないのではないか。
(朝井リョウ)
表面の摩擦がなくなっても、人の心の奥にある感情は消えない。その乖離に気づくことが、自分の「なんとなく生きにくい」という感覚を信頼する第一歩になる。朝井の鋭い時代観察が詰まった一言だ。
名言8【朝井リョウ】絶対評価の時代が奪ったもの
私の世代は、相対評価よりも絶対評価が重視されてきました。対立をなくす動きで自分の価値を確かめることが難しくなった気がします。
(朝井リョウ)
「みんな頑張った」「みんな正解」という教育の中で育った世代が感じる根拠のない不安。競い合う場がなくなったからこそ、自分の立ち位置がわからなくなる。朝井はそのリアルを正直に、丁寧に語る。
名言9【朝井リョウ】筆で人間を耕す
どんなテーマの小説でも、心の部分に辿り着くまで、筆で人間を耕せたらと思う。
(朝井リョウ)
事件でも恋愛でも就活でも、朝井が目指すのは表層の物語ではなく、その奥にある人間の心の土壌だ。「耕す」という農的な言葉に、読者ひとりひとりの内側にまで届かせたいという静かな覚悟が滲む。
名言10【朝井リョウ】日常の中に潜む絶望感を書きたい
戦争や殺人でもない日常のシーンなのに、なんでこんなに絶望感を感じるのだろう、と思わせる文章を描きたい。
(朝井リョウ)
朝井の小説が刺さるのは、派手な事件があるからではない。ごく普通のやり取りに積み重なる絶望を描くから。その正体に言葉が与えられると、自分の中にあった霧もすこし晴れる気がしてくる。
名言11【朝井リョウ】小説が「大発見」を生む
文章を通じることで、自分と異なると思っていた人たちが自分に向き合ってくれるという「大発見」が、小説創作の原動力となった。
(朝井リョウ)
「自分とは違う」と思っていた人が、自分の書いた言葉に共鳴してくれた驚き。その体験が朝井を書き続けさせる根本にある。言葉は、見えない壁を越えて人と人を繋げられるという確かな証明だ。
名言12【朝井リョウ】ハタチ前後の判断力への正直な目線
ハタチ前後の私の視野や判断力なんて未熟そのもの。自分の人生にとって大切なものってコロコロ変わります。
(朝井リョウ)
若い頃の判断は未熟で当然、価値観が変わることは成長の証だと朝井は明かす。今の自分の視野が狭くても、それは責めるべきことではない。変わり続ける自分を許すための言葉として、そっと受け取れる。
名言13【朝井リョウ】就活は「ひとつの科目」に過ぎない
就活はあくまで「就活」というひとつの科目で、人格や能力を丸ごと測る物差しではない。
(朝井リョウ)
就活で落ちることは、人格を否定されたことではない。ただひとつの科目で点が取れなかっただけだと朝井は言い切る。『何者』を書いた作家の言葉だからこそ、就活に苦しんだ人の胸に深く届く。
名言14【朝井リョウ】人の目も常識も変わる、を身体で知った
人の目自体がコロコロ変わる。30年以上生きてようやく自分の身体で感じた。
(朝井リョウ)
「周りの目が気になる」と悩む人へ、朝井は経験から語る。その目自体が変わるものだと。今恐れている視線は、数年後には別のものへと移っている。それを体で知ることが、すこし楽にしてくれる。
名言15【朝井リョウ】どうでもよくなることへの期待
色んなことがどんどんどうでもよくなっていくのが、今から楽しみ。
(朝井リョウ)
年を重ねることへの恐れではなく、こだわりが薄れていく自由さへの期待として語るのが朝井らしい。「どうでもいい」は無関心ではなく余裕の表れ。老いることへの、軽やかで前向きな肯定として読める。
名言16【朝井リョウ】作家としてより、人としての問い
この数年、本当に色んなことがあって、作家としての在り方云々よりもひとりの人としてどう生きたいか考えるようになっちゃった。
(朝井リョウ)
何かに揺さぶられた末に、「作家らしくあること」より「自分として生きること」が先に来るようになったという告白。役割や肩書より、自分の感覚を優先させたいというシンプルな欲求は、誰の胸にも響く。
名言17【朝井リョウ】最大公約数の人生から書く
最大公約数の人生を歩んできた。だからこそ多くの人が共通で感じることを文章にすることが目標。
(朝井リョウ)
特別な経験でなく、「ありふれた人生」の中にこそ普遍がある。朝井は自分の平凡さを弱みではなく強みとして捉え直し、多くの人が言葉にできないまま抱えてきたことを代わりに書く作家であろうとしている。
名言18【朝井リョウ】「書く」と決めるだけの違い
小説を書く人と書かない人の違いは「私は小説を書く」と決めているか否かだけ。
(朝井リョウ)
才能の差ではなく、決断の差だと朝井は語る。「自分には無理」と思った瞬間に可能性は静かに閉じるが、「私はやる」と決めた瞬間から道は開き始める。創作に限らず、何かを始めたい人を後押しする一言だ。
名言19【朝井リョウ】絶対に書きたい一行から書き始める
絶対に書きたい一行を決めてから書き始めることが多い。
(朝井リョウ)
「どこから始めればいいかわからない」——そんなとき、朝井は構成より先に「書きたい一行」を決めることから始めた。唯一の正解ではないが、自分なりの入口を見つけるためのひとつのヒントとして受け取ってほしい。
名言20【朝井リョウ】下手でも最後まで書き切ることへのプライド
どれだけ下手くそでも最後まで書く、ということだけにプライドを持ってやってました。書き終える人って意外と少ないんですよね。
(朝井リョウ)
完璧でなくていい、最後まで書き切ることだけにプライドを持つ——それが朝井の出発点だった。完成させることに意味があると朝井は信じ続けた。何かを作り始めた人の背中を、静かに押してくれる言葉だ。
名言21【朝井リョウ】「書きたかった一行」に出会えれば、それでいい
物語の起承転結はどうでもいいと思っていて。読んでいるときも書いているときも、これを書きたかったんだ!という一行に出会えればそれでいい。
(朝井リョウ)
完璧な構成より、魂が揺れる一行。朝井にとって小説は「そのために書いてきたんだ」という瞬間のためにある。起承転結ではなく、たった一行との出会いに向かって書き続けるのが、朝井の創作の根本的な姿勢だ。
名言22【朝井リョウ】遠く見えたものが、実は近くにある気づき
互いに遠くにあると思っていたふたつの事象が本質的には近くにあると気づいたとき、そこに普遍性が宿ると思っています。
(朝井リョウ)
「これとあれは全然違う」と思っていたものが、実は根っこで繋がっている。その発見が普遍性を生む。朝井の観察眼は、バラバラに見える出来事の中に「同じ何か」を見出し続けることにこそ宿っている。
名言23【朝井リョウ】世の中にある感情より言葉は少ない
世の中にある感情や現象に対して、言葉のほうが少ない。
(朝井リョウ)
「うまく言えない」のは、表現力が足りないのではなく、その感情に対応する言葉がまだ存在しないからかもしれない。だからこそ朝井は書く。まだ名前のない感情に言葉を与えるために、ページを埋め続ける。
名言24【朝井リョウ】「こういう気持ちがあっていいんだ」という喜び
こういう気持ちってあっていいんだ、こういう気持ちを抱いている人がほかにもいるんだという気づきって、思った以上に喜びになる。
(朝井リョウ)
モヤモヤした感情に「名前」と「仲間」が見つかる瞬間の安堵感を、朝井は「喜び」と表現する。本を読んで「これだ」と感じる体験の正体を言語化した言葉。小説が静かに人を救う理由がここにある。
名言25【朝井リョウ】書く人は「いつか書く」という目で日々を見ている
日々の中でも「いつか今この瞬間を書くんだろうな」という思考を持つようになった。書くという行為は、どこかで自分のことを俯瞰的に見ている部分がある。
(朝井リョウ)
「書く」という習慣は、日常の見え方を変える。悔しさも悲しさも、いつか言葉になる素材として収められる。その俯瞰の視点は、書く人だけでなく、日々の出来事をメモに残す人にも育てられる目かもしれない。
名言26【朝井リョウ】別の人間になりたい欲望を叶えてくれる場所
小説を書くことで、別の人間になりたい願望を叶えてくれている。
(朝井リョウ)
現実では一つの人生しか生きられないが、小説の中では別の誰かになれる。朝井にとって書くことは逃避ではなく、多様な自分を生きるための実践だ。小説を読むだけでも、その自由をわずかに体験できる。
名言27【朝井リョウ】ふたつの事象が繋がったときの快感
「これとこれは、ひとつの言葉で繋がる。ここが本質的に一緒だ」って気付いた瞬間、ものすごく快感なんです。その快感を再現するために、小説を書いているところがあるんです。
(朝井リョウ)
朝井を書き続けさせているのは、義務でも使命感でもなく、「気づきの快感」だ。バラバラに見えたものが一本の言葉で繋がる瞬間の喜びは、書くことに限らず、思考する誰もが体験できる感覚だ。
名言28【朝井リョウ】「自分らしい」と自覚したことはない
そもそも、小説を書くことが自分らしいと自覚したことはありません。周りのクラスメイトがゲームが好きだったり野球が好きだったり、そういうことと同じで、私は小説を書くことが好きでした。
(朝井リョウ)
「自分らしさ」とは意識して作るものではなく、ただ好きでやってきたことの積み重ねだと朝井は語る。大げさな自己実現より、好きなことを淡々と続けた先にこそ、アイデンティティは自然に宿っていく。
名言29【朝井リョウ】解決策は「真剣に生きる」しかない
解決策としては、「真剣に生きる」しかないのだから、あまり余計なことは考えずにいよう。
(朝井リョウ)
分析しても悩んでも、最後に残るのはシンプルな一言だ。朝井自身が何かに行き詰まった末に絞り出したような言葉だからこそ、真剣に生きることへの覚悟と、余計な思考を手放す解放感の両方が宿っている。
まとめ
朝井リョウの名言29選を振り返ると、共通するのは「揺れてもいい」「変わってもいい」という人間への眼差しだ。正しくあろうとしすぎて疲れたとき、一貫した自分を演じ続けることに限界を感じたとき、彼の言葉はそっと息継ぎをさせてくれる。
本を開くことも、書くことも、言葉と向き合うことも——朝井が繰り返し語る「ひとりになる時間」の異なる形だ。今日の自分の気持ちを、少しだけ丁寧に拾うところから始めてみてほしい。
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