村田沙耶香の名言86選

村田沙耶香の名言86選。インタビューで語った言葉と『コンビニ人間』『地球星人』の名セリフを出典つきで収録。「普通」に馴染めず苦しいとき、同じ場所に立つ人の声として届く言葉が見つかります。
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「普通って、何だろう」。そう感じたことのある人にとって、村田沙耶香の名言は、答えではなく問いの続きをくれる言葉です。2016年に『コンビニ人間』で芥川賞を受賞して以来、村田沙耶香は「普通」や常識を、外側から眺めるように問い直す作品を書き続けてきました。この記事では、インタビューやエッセイで本人が語った言葉と、作品の登場人物が放った名セリフを、全部で86件集めています。
自分だけ周りとずれている気がする。空気を読むことに疲れた。好きなものを誰にも言えずにいる。そんな感覚を抱えて検索してきた人に、まず伝えたいのは、村田沙耶香自身がその感覚を抱えたまま書き続けてきた人だということです。言葉は、慰めというより、同じ場所に立っている人の声として届くはずです。
出典はできる限り明記し、一つひとつの言葉に、それが生まれた背景と、日常のどんな場面で思い出したくなるかを添えました。気になった見出しから、読み始めてみてください。

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村田沙耶香とはどんな人物か

村田沙耶香は1979年生まれ、千葉県出身の小説家です。10歳のころから小説を書き始め、長くコンビニでアルバイトを続けながら作品を発表してきました。2016年、『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。「普通」に適応できない主人公・古倉恵子が、コンビニという場所でだけまっとうに機能していく姿は、日本国内にとどまらず海外でも広く読まれています。その後も『地球星人』『消滅世界』『信仰』など、「普通」や常識、家族や性といった、誰もが善と信じているものを根底から問い直す作品を書き続けています。本人は自らを、小説を書くために世界に置かれた観察装置のような存在だと語っています。

村田沙耶香自身が語った言葉

名言1【村田沙耶香】自分は世界に置かれた観察装置

自分自身を、小説を書くために世界に置かれているだけの人間だと思っていて

(村田沙耶香)

出典:文藝春秋「本の話」インタビュー(『信仰』刊行記念、2022年7月)
『信仰』刊行記念のインタビューで、自分をどう捉えているかを問われて出た言葉です。続けて、自分についているカメラで世界を眺め、心の反応をデータとして取っておく感覚がある、とも語っています。自分を主役ではなく観察装置とみなす、少し奇妙で、どこか身軽な自己像です。仕事の役割や肩書きで自分を定義しきれないとき、この言葉は「何のために置かれているか」という問いの形で、別の軸があることを教えてくれます。

名言2【村田沙耶香】宇宙人の目で人間を見たい

「宇宙人の目で人間を見たい」と思っているんです。だって人間って、すごく変な生き物ですよね

(村田沙耶香)

出典:CINRA 村田沙耶香×松井周 対談インタビュー(2019年11月)
『変半身』の刊行と公演にあわせた、演出家・松井周との対談で語られた言葉です。人間はすごく変な生き物だと言い切り、傲慢で奇妙なその姿を外側から眺める自分の目線を説明しました。職場の当たり前に「なぜ?」と引っかかってしまうとき、その違和感は空気が読めない弱さではなく、宇宙人の視点かもしれません。少しずれた目は、見えている人にしか地図を描き直せない強みになります。

名言3【村田沙耶香】普通に見える人も話せば変

普通に見える人たちも、じっくり話すと変なところがある

(村田沙耶香)

出典:りっすん by イーアイデム インタビュー(2019年2月)
『コンビニ人間』の著者として「普通」を語ったインタビューの一節です。誰しもが変だと思っている、という自身の人間観を率直に述べました。堂々として見える同僚や、器用に生きているように映る友人がうらやましくなるとき、思い出したい言葉です。遠くから見える「普通の人」は、距離の産物にすぎないのかもしれません。少し深く話してみると相手の変なところが見えてきて、こちらの肩の力も抜けていきます。

名言4【村田沙耶香】奴隷みたいな人生で終わらないために

死ぬときに「いろんな人に従った奴隷みたいな人生だったな」って思うんじゃなくて、「楽しかったな」って思ってほしいです

(村田沙耶香)

出典:りっすん by イーアイデム インタビュー(2019年2月)
同じインタビューの終盤、読者へ向けて語られた言葉です。「普通でいなければ」という強迫観念に苦しんだ自身の経験を踏まえ、同調圧力に屈せず人生を楽しんでほしいという願いが込められています。断れば空気が悪くなると思って、また引き受けてしまう。その積み重ねが、自分のしたいことを見えなくさせます。死ぬときの感想は一度きりです。小さな場面で自分で決める回数が、「楽しかった」への距離を縮めていきます。

名言5【村田沙耶香】刃物の刃先は自分に向ける

小説の中にある刃物を自分に向けていたい

(村田沙耶香)

出典:集英社 文芸ステーション『世界99』刊行記念インタビュー(2024年)
『世界99』の刊行にあわせたインタビューで語られた創作姿勢です。恩師から受け継いだ「刃物の刃先を必ず自分に向ける」という言葉を、小説を自己解剖の道具として使い続ける指針にしていると明かしました。誰かを批評するのは簡単で、心地よくもあります。けれど、あの判断は正しかったのかと刃先を自分に向けられる人だけが、次の深みへ降りていけます。向け方は鋭くなくていい。問いを一つ、自分に返すだけで十分です。

名言6【村田沙耶香】今の自分では書けない言葉へ

これからずっと書き続けていたら、どんどんどんどん、今の自分では書けないような、もっと深く掘った言葉に辿(たど)り着くのではないか、となんとなく思っています

(村田沙耶香)

出典:Business Insider Japan インタビュー(2024年頃)
「刷り込まれた幸せの外側へ」をテーマにしたインタビューで、書き続けることの意味を語った言葉です。続けていけば、今の自分では届かない深く掘った言葉に辿り着くのではないか、という創作への信頼がにじんでいます。目の前の成果が平凡に見えると、才能の有無を疑いたくなります。深い言葉は、続けた人の足元にしか現れない。「なんとなく思っている」という控えめな言い方に、長く続ける人の体温があります。

名言7【村田沙耶香】善と信じられているものほど疑う

誰もが善なるものと思っているものほど疑ってしまう。世界を愛しているからこそ、自分が信じるものの強度を確かめたくなるんですよ

(村田沙耶香)

出典:文藝春秋 CREA『消滅世界』インタビュー(2016年3月号)
『消滅世界』をめぐるCREAのインタビューでの言葉です。「家族」や「性」といった善と信じられているものを根底から疑う理由として、世界への愛と好奇心を挙げました。みんなが当たり前だと思うことに疑問を持つと、自分がおかしいのではと不安になります。けれど疑うことは無関心の反対です。本気で大切に思うからこそ、その強度を確かめたくなる。疑問を抱く自分を、冷めた人間だと決めつけなくていいのだと思います。

名言8【村田沙耶香】都合のいい小説は書かない

小説の言葉も物語も小説のためだけに存在していてほしい、自分にとって都合のいい小説は書かないようにしていたい

(村田沙耶香)

出典:Business Insider Japan インタビュー
自身の創作姿勢について語った言葉で、小説を自分の主張を伝えるための道具にしないという態度を明確にしています。言葉も物語も小説のためだけに存在してほしい、という願いは、作家としての潔癖さです。資料を自分が正しく見えるように書いてしまった、と気づく経験は誰にでもあります。都合よく見せたくなるのは自然なことです。それでも、これは事実か、言い訳かと一度だけ問うその手間が、信頼される言葉を守ります。

名言9【村田沙耶香】登場人物は感情のはけ口ではない

登場人物は作者の感情を発散する道具ではありません

(村田沙耶香)

出典:新刊JP ベストセラーズインタビュー『地球星人』(2018年)
『地球星人』刊行時のインタビューで語られた言葉です。自分の怒りや価値観を登場人物に代弁させる書き方を否定し、「書くことで何かを知りたい」という探究の姿勢を示しました。疲れている日に、身近な人へ感情をぶつけてしまうことがあります。人を自分の感情を発散する道具にしてしまうのは、誰にでも起こりうることです。大切なのは、後で気づけること。相手は道具ではなく、自分の状態を映す鏡なのかもしれません。

名言10【村田沙耶香】結婚や出産も工場の洗脳かもしれない

恋や結婚をして子供を産まなきゃいけないと思うのも工場の洗脳かもしれない

(村田沙耶香)

出典:小説丸 著者インタビュー『地球星人』(2018年)
『地球星人』のインタビューでの発言です。同作では地球が「人間工場」として描かれ、恋愛・結婚・出産は工場のシステムの一部とされています。「まだ結婚しないの?」と聞かれて黙り込むとき、胸に生まれる焦りは本当に自分のものでしょうか。一度だけ問い返してみる価値があります。社会が当然とするレールと、自分が望む人生は、重なることもあれば、ずれることもある。ずれに気づくことが、洗脳を解く最初の一歩です。

名言11【村田沙耶香】違和感と性愛という二つのテーマ

『違和感』と『性愛』は自分の中の大きなテーマとしてあると思います

(村田沙耶香)

出典:新刊JP ベストセラーズインタビュー『地球星人』(2018年)
『地球星人』刊行時のインタビューで、自作のテーマを問われたときの答えです。物語を作ると登場人物がそれぞれ抱えているものとして自然に出てくる、と補足しました。なぜこんなことが気になるのだろう、と恥ずかしくなることがあります。けれど、引っかかり続ける違和感こそ、自分だけが掘れるテーマの種かもしれません。周りと同じ関心を持てないことは欠落ではなく、固有の鉱脈を持っているということです。

名言12【村田沙耶香】ユートピアがディストピアに見える人もいる

“性”や”家族”を取っ払った世界は、私にはユートピアに思えていたのですが、書き上がってみたら、ディストピアと受け取る人もいた

(村田沙耶香)

出典:文藝春秋 CREA『消滅世界』インタビュー(2016年3月号)
『消滅世界』について語ったインタビューでの言葉です。人工授精が標準になり、夫婦間の性が「近親相姦」とされる世界を、本人はユートピアとして構想しました。ところが読者の中にはディストピアと受け取る人もいた。同じ景色を見ても、相手には違うものが映ることがあります。わかってもらえないとき、感性が間違っているわけではありません。違う解釈が並び立つこと自体が、作品にも人間関係にも、深みをもたらします。

名言13【村田沙耶香】小学生のころから文体が欲しかった

自分の文体が欲しいというのが小学校のころからの願いだから、心の底から憧れている

(村田沙耶香)

出典:Numero TOKYO 山崎ナオコーラ×村田沙耶香「身体をめぐることば」(2021年7月)
山崎ナオコーラとの対談で、言葉と文体について語った際の発言です。自分の文体が欲しいという願いは小学校のころからのもので、今も心の底から憧れていると告白しました。芥川賞作家でさえ、まだ憧れの途中にいる。自分らしさとは何かと迷うとき、その願いは急に生まれたものではないはずです。不格好な一文も、積み重ねれば自分の文体へ続いている。憧れ続けること自体を、才能と呼んでもいいのかもしれません。

名言14【村田沙耶香】寿命を全部使って完成させたい

寿命を全部使って、自分が書きたい形のものを完成できたらいいなと願っています

(村田沙耶香)

出典:Numero TOKYO 山崎ナオコーラ×村田沙耶香「身体をめぐることば」(2021年7月)
同じ対談で、文体への憧れを語った流れで出てきた言葉です。生涯をかけて理想の文章に辿り着きたいという、作家としての切実な願いが込められています。今さら始めても遅いのではないか、という迷いは誰にでも訪れます。けれど寿命を全部使うつもりなら、締め切りは目の前ではなく、人生の終わりにあります。焦って仕上げる必要はありません。長い時間をかけていいものを一つ持っている人は、目の前の一歩を軽く扱わずに済みます。

名言15【村田沙耶香】小説は自分の手に負えない奇妙なもの

自分の小説は、自分の手に負えない奇妙なものであって、自分の思想を説明するための道具だとは考えていない

(村田沙耶香)

出典:Numero TOKYO 山崎ナオコーラ×村田沙耶香「身体をめぐることば」(2021年7月)
小説と思想の関係について語った言葉です。無意識を使って書いているので、そういう言葉が小説の中で発生する、と補足しており、作品が自分の意図を超えた場所から生まれるという創作観を示しています。うまく説明できない感情を持て余すとき、人は説明できない自分を未熟だと感じがちです。でも、手に負えない部分こそ、他の誰にも作れないものの源かもしれません。説明しきれないまま置いておくことも、表現の一部です。

名言16【村田沙耶香】私の身体は私のもの

私の身体は私のものなんだという当たり前のことに気づくことができて

(村田沙耶香)

出典:Numero TOKYO 山崎ナオコーラ×村田沙耶香「身体をめぐることば」(2021年7月)
身体と自己所有権について語った場面での発言です。女としての身体もわりと好きだと思っている、という文脈で述べられ、自分の肉体を社会のシステムや他者に明け渡さないという姿勢を示しています。どう見られるべきか、という他人の目線で自分を動かしてきたと気づいたとき、この言葉は静かに効いてきます。何を食べ、どう休むか。小さな選択を「私のもの」として決めることが、自分を取り戻す練習になります。

名言17【村田沙耶香】小説だけが自由になれる世界だった

小説って私にとって唯一、自由になれる世界だったんです

(村田沙耶香)

出典:ニューヨークビズ!インタビュー「小説だけが私を自由にさせてくれる唯一の世界」
ニューヨーク在住の日本語メディアのインタビューで語られた言葉です。「賞を狙ってとか、何かのために書くことはもう絶対にしない」という言葉と対になっており、小説が自分の根拠であることを示しています。ちゃんとしなければ、と思い続けた一日の終わりに、誰にでも自分だけになれる場所が必要です。料理でも、走ることでも構いません。他人の目を外せる場所を一つ持っていると、翌日もう一度、人の中へ戻っていけます。

名言18【村田沙耶香】何かのために書くことはもうしない

賞を狙ってとか、何かのために書くってことは、もう絶対にしないって決めました

(村田沙耶香)

出典:ニューヨークビズ!インタビュー
書く動機について語った言葉です。何も考えずに書くことが自分にとってベストなやり方だと補足し、外部の評価ではなく内側から湧き出る衝動で書くという姿勢を明言しました。認めてもらいたい気持ちが動機になっていたと気づくと、落ち込むかもしれません。けれど評価を求めること自体は悪ではなく、ただ疲れやすいだけです。「これが好きだから続ける」と言える理由を一つ持っていると、評価が揺れても足元は揺れにくくなります。

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名言19【村田沙耶香】人の脳の数だけ世界がある

人の脳の数だけ世界があるって奇妙で素敵なこと。だれかの脳を借りて、世の中を眺めてみたいなとよく思います

(村田沙耶香)

出典:Precious.jp インタビュー(エッセイ集『となりの脳世界』関連)
エッセイ集『となりの脳世界』に関連したインタビューで語られた言葉です。同書のテーマである「脳の中の独自の世界」を説明する文脈で、人がそれぞれ自分だけの認識の宇宙を持つことへの驚きと関心を表しています。この人の考え方は理解できない、と感じるとき、相手の脳がどんな世界を映しているのかを想像してみる。対立は少し観察に変わります。人の数だけ世界があるなら、自分の脳が映す世界も、一つの貴重な標本です。

名言20【村田沙耶香】記憶を冷凍保存して書くときに解凍する

とり憑かれたように祈るように書いてきたんです。毎日の生活のなかで、重なり合った記憶を脳に冷凍保存しておいて、書くときに解凍している形です

(村田沙耶香)

出典:Precious.jp インタビュー(エッセイ集『となりの脳世界』関連)
デビューから一貫した執筆姿勢を語った言葉です。日常で感じた違和感や感情を「冷凍保存」し、執筆時に「解凍」するという比喩で、独自の創作プロセスを説明しました。毎日があっという間に過ぎ、何も残せていない気がする。そんなときも、見たもの感じたものは、気づかないうちに自分の中に保存されています。いつか解凍される日が来ると信じて、引っかかった場面を流さずに感じておくだけでいいのです。

名言21【村田沙耶香】怒りも形を変えて保存されている

形を変えて、自分の中に全部冷凍保存されているんですよね。小説を書くと、それがどんどん解凍されて出てくるんです

(村田沙耶香)

出典:カドブン インタビュー(KADOKAWA)
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』の刊行記念インタビューでの言葉です。幼いころ「怒ると罰が当たる」と思い込んでいたため怒りを外に出せず、その感情が変形して小説として出てくるという仕組みを説明しました。理不尽に扱われた日、怒りを飲み込んだ自分を責めなくていい。飲み込んだ怒りは消えるのではなく、保存されていきます。なぜ嫌だったのかを後から振り返るだけでも、いつか自分の言葉として解凍されるはずです。

名言22【村田沙耶香】無意識から言葉が出てくるのが楽しい

覚醒している意識の世界よりもずっとずっと広い無意識の世界があり、小説を書くことやぬいぐるみを通して、自分の無意識の世界から言葉が出てくる。それが楽しい

(村田沙耶香)

出典:カドブン インタビュー(KADOKAWA)
同じインタビューで創作の喜びを語った言葉です。覚醒している意識より広い無意識の世界があり、小説やぬいぐるみを通じてそこから言葉が出てくることを「楽しい」と表現しました。自分が何を感じているのかわからない、という状態は、空っぽなのではありません。意識できている部分より、ずっと広い自分がいるということです。結論を決めずに手を動かしてみると、意識の外側にあった本音が、ふいに顔を出すことがあります。

名言23【村田沙耶香】怒っていいと気づき始めた段階

本当に日本は遅れているな、と思っています。日本はやっと『これに怒っていいんだ』とか『これに傷ついていいんだ』っていうことに気づき始めた段階にあると思います

(村田沙耶香)

出典:TORJA トロント国際作家祭インタビュー(2019年)
トロント国際作家祭でのインタビューで、日本のジェンダー意識や#MeToo運動への反応について語った言葉です。それくらいで怒るなんて、と自分を封じてきた人にとって、この言葉は許可証のように響きます。怒ってよかった。傷ついてよかった。感情を持つことは弱さではなく、自分の世界を守ろうとする反応です。気づき始めた段階にいるのは、社会だけでなく、私たち一人ひとりでもあります。

名言24【村田沙耶香】出会った世界を食べ続ける

私はこれからも出会った世界を食べ続ける

(村田沙耶香)

出典:国際交流基金ウェブマガジン「をちこち」(2019年)
国際交流基金のウェブマガジンに寄せた一節の締めくくりです。海外で作品が受け入れられる体験を経て、新しい世界を食べていたと感じ、38年間日本という世界を食べ続けてきた自分に変化が始まったと語りました。縁がないと思っていた本や異文化のドキュメンタリー。そこで感じたときめきや違和感を、自分には関係ないと閉じてしまうのは惜しいことです。一口ずつでも食べ続ける人の世界は、少しずつ広がっていきます。

名言25【村田沙耶香】書き終えた翌日に次を書き始める

『また書けなくなるかも』という恐怖があるので、ひとつ作品を書き終えても、翌日くらいには新しく書き始めることにしています

(村田沙耶香)

出典:大人のおしゃれ手帖 web インタビュー
執筆のリズムについて語った言葉です。デビュー前に一時スランプで一行も書けなくなった経験があるため、作品を書き終えた翌日から次を書き始める習慣を持っていると明かしました。何かを仕上げた夜、安堵より先に「次もできるだろうか」という不安が来ることがあります。その恐怖は邪魔者ではなく、すぐ動くための合図として使えます。怖さを抱えたまま、小さく始める。続けている人の多くは、そうやって恐怖と同居しています。

名言26【村田沙耶香】友情だけは変なふうに書けない

小説の中でも友情みたいなものをあまり汚せないというか、変なふうに書けない

(村田沙耶香)

出典:クロワッサン オンライン『丸の内魔法少女ミラクリーナ』インタビュー
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』に友情を描いた理由を語った発言です。家族・恋愛・社会規範は徹底的に問い直す自分でも、友情だけは美しく書いてしまうと告白し、「友情が私にとって唯一の救い」とも述べました。友人に正直に言いたいけれど傷つけたくない、と迷うとき、その遠慮は弱さではなく、その関係が本物である印です。汚せないものを一つ持っていることは、疑うことを仕事にしてきた人にとっても、最後の足場になります。

名言27【村田沙耶香】自分を麻痺させて生き延びてきた

私は自分を麻痺させることで生き延びてきた

(村田沙耶香)

出典:集英社 文芸ステーション『世界99』刊行記念インタビュー(2024年)
『世界99』の刊行記念インタビューで、幼少期から現在までの生存戦略を語った言葉です。母との関係や社会への違和感を内側に抱えながら、感情を麻痺させて生きてきたこと。その経験が小説の源泉になっているとも述べています。何も感じないようにしてやり過ごした時期は、誰にでもあります。麻痺は、その時の自分にできた精一杯の知恵でした。生き延びてここにいる自分を、まず受け取るところからすべては始まります。

名言28【村田沙耶香】本だけが正しくない人を許してくれた

本だけが唯一正しくない人がいても許される場所だった

(村田沙耶香)

出典:本がすき。インタビュー「自分らしく生きるために必要なこと」
子ども時代に「正しい人になること」を自分に課していたと振り返り、その中で本だけが「正しくない人」を許容してくれる空間だったと語った言葉です。本が逃げ場だったのです。正解を出し続けなければと走ってきた人ほど、間違えていい場所を持っていません。本の中では迷っていいし、ずるくてもいい。正しくなくていい場所が本棚の中に用意されていると知るだけで、現実での呼吸も少し深くなります。

名言29【村田沙耶香】本当の本当を知りたい

小さいころから、頭のなかで想像や妄想することが好きでした。そして真実というもの、本当の本当を知りたい欲求が強かった

(村田沙耶香)

出典:Precious.jp インタビュー(エッセイ集『となりの脳世界』関連)
幼少期からの想像癖と「本当の本当を知りたい」という欲求を語った言葉です。人目を気にして誰にも話せないことも、小説の中では自分の意思で生きられる、救いだった、と続いています。会議中にふと別のことを考えてしまい、集中できない自分を責めた経験はないでしょうか。けれど、飛んでいく頭は真実への嗅覚かもしれません。引っかかったことを恥じるより、味わってみる。その欲求は、磨けば感性の芽になります。

名言30【村田沙耶香】初めて人間を疑ったときの気持ち

この作品を読み終えた時に、私が初めて人間を疑った時のような気持ちになってもらったら嬉しい

(村田沙耶香)

出典:SPICE 村田沙耶香×松井周『変半身(かわりみ)』特別対談(2019年)
『変半身』に際した松井周との特別対談で、読者へ向けて語った言葉です。自分が初めて人間という存在を疑った幼少期の感覚を、読者にも体験してほしいという創作の意図を示しました。なぜみんなそうしているのだろう、とふと立ち止まる瞬間は、不安の種ではなく、思考の入り口です。当たり前の空気を初めて疑ったときの驚きを、大人になっても手放さずにいる。その新鮮さは、年齢ではなく、問いを持ち続けるかどうかで決まります。

名言31【村田沙耶香】本当の自分は誰にとっても難しい

どこまでが本当の自分なのかを理解するのって、誰にとっても難しいことではないかと思う

(村田沙耶香)

出典:BAILA インタビュー「自分の意志ってなんだろう」(2024年)
『世界99』の刊行記念インタビューで、主人公・空子の設定について話す流れで出た言葉です。個人の意志と社会の刷り込みの境界を問い続けていることを示しました。本当の自分がわからない、という悩みは、弱さではありません。作家自身が「誰にとっても難しい」と言い切る問いなのです。正解を見つけようとしなくていい。わからないまま、少しずつ輪郭を確かめていくことが、この問いとの付き合い方です。

名言32【村田沙耶香】書くことで既成概念が粉々になる

ふだん、むしろ既成概念にとらわれている気が自分ではしているんですけれど、書くことでそれが粉々になる感じが、頭がすっきりして好きなので

(村田沙耶香)

出典:現代ビジネス 群像インタビュー「小説を裏切らず、変わらずに書き続ける。村田沙耶香の20年」(2023年)
デビュー20周年を記念した群像のインタビューで語られた言葉です。日常では自分も既成概念にとらわれているけれど、書くことでその概念が砕かれる爽快感が、創作を続ける動力になっていると述べました。空気を読まなければ、これが普通だよね、と自分の中に何重ものブレーキがかかることがあります。上手でなくていいから、思ったことを正直に言葉にしてみる。頭がすっきりするあの感覚は、言葉にした人だけが知っています。

名言33【村田沙耶香】小説の中では自分の意思で生きられる

人目を気にして、だれにも話せないようなことも、小説のなかでは自分の意思で生きられる。救いでした

(村田沙耶香)

出典:Precious.jp インタビュー(エッセイ集『となりの脳世界』関連)
日常では他者の目を気にして言えないことを、小説の中でなら生きられると語った言葉です。小説が「救い」であったという、書くことの本質を示しています。誰にも話せないことを抱えたまま、眠れない夜を過ごすことがあります。そこに責められるべきものは何もありません。紙の上でも、頭の中の物語でもいい。自分の意思で生きられる場所を一つ持っておくことが、現実を生き延びるための、静かな救いになります。

名言34【村田沙耶香】不器用な自分が初めてまともにできた場所

小さい頃から不器用だった自分が初めてなにかをまともにできた場所

(村田沙耶香)

出典:logmi.jp 芥川賞受賞後インタビュー全文書き起こし(2016年)
芥川賞受賞後のインタビューで、コンビニを「自分の聖域」と語る流れで出た言葉です。小さいころから不器用だった自分が、初めて何かをまともにできた場所。何をやっても人より遅い、うまくできないと感じてきた人にとって、この言葉は希望です。不器用さは直すものではなく、時間をかけて居場所を見つけるためのものかもしれません。長く続けているものがあるなら、それはもう、まともにできている証拠です。

名言35【村田沙耶香】降ってくる言葉の全部には返せない

とにかくたくさんの言葉が降ってくる毎日。全てに返すことはできないが、小説家として受け取れるものを大切に心にとどめたい

(村田沙耶香)

出典:TOKYO FM プレスリリース(2016年8月)
芥川賞受賞後、TOKYO FMの番組に出演した際に述べた言葉です。受賞後の多忙な時間の中でも、作家として受け取るべき言葉を大切に心にとどめたい、という姿勢を語っています。毎日たくさんのものが押し寄せてきます。全部に応えなければと焦ると、何も残らなくなる。受け取れるものだけ受け取ればいい、という割り切りは、冷たさではなく誠実さです。心にとどめた少しの言葉が、自分の軸になっていきます。

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村田沙耶香が「全てには返せない」と語ったように、言葉も情報も、いつも多すぎます。ポケットAnchorは、ロック画面に一言を置いておくためのアプリです。アプリ独自のコレクションから選ばれた偉人の名言が、著者名とともに表示されます。読み流しても、立ち止まっても構いません。

名言36【村田沙耶香】自分の罪や加害に興味がわいてきた

これを書いたことをきっかけに自分の罪や加害というものに興味がわいてきました

(村田沙耶香)

出典:文藝春秋「本の話」インタビュー(『信仰』刊行記念、2022年7月)
『信仰』の刊行記念インタビューで、近作のテーマとして語った言葉です。加害に加担することへの強い関心を述べ、自らの罪の断面を言語化したい欲求が、新しい創作の方向になっていると示しました。自分の嫌な部分に気づいたとき、人は見ないふりをしがちです。けれど影に目を向けることは、自分を責めることとは違います。批判せずに眺めてみる。「なぜだろう」と興味が湧いた瞬間、それは恐怖ではなく、探究に変わっています。

名言37【村田沙耶香】人類を裏切っても物語は裏切らない

I won’t betray the story, even if I end up betraying humanity.

(村田沙耶香)

出典:The Gentlewoman インタビュー(2025年)
The Gentlewomanのインタビューで、創作への誠実さを語った言葉です。「物語を裏切らない。たとえ人類を裏切ることになっても」という宣言は、小説に全面的に従う創作哲学の極限です。期待に応え続けて、本当にやりたいことを後回しにしていると気づいたとき、問いは一つに絞られます。「私は何を、裏切りたくないか」。その答えを持っている人は、全部を守ろうとして全部を失う消耗から距離を置けます。

名言38【村田沙耶香】書くたびに先入観を削り取る

If I hadn’t written fiction, I think I’d still be struggling. Every time I write a story, it feels like I’m chipping away at the preconceived ideas that constrain me.

(村田沙耶香)

出典:nippon.com 英語インタビュー(2019年頃)
nippon.comの英語インタビューで、小説を書く意味を語った言葉です。書くたびに自分を縛る固定観念を削り取っていく感じがする、と語り、創作を内的な解放として捉えています。このままでは変われない、という焦りは本物です。けれど変わる道は、大きな決断だけではありません。書くことも、話すことも、先入観を一削りずつ落としていく行為です。「こうあるべき」を一つ疑うたび、縛りは少しだけ緩みます。

名言39【村田沙耶香】物語が連れていく方向にだけ進む

While writing, authors should only follow where the story takes them.

(村田沙耶香)

出典:nippon.com 英語インタビュー(2019年頃)
同じインタビューで、執筆中の指針を語った言葉です。書いている間は物語が連れていく方向にだけ進むべきだ、という考えは、「小説に連れていかれる」という日本語での発言と呼応しています。うまくいくかわからないから手が止まる。そんなとき、行き先を決めてから動く必要はありません。始めたことが次の一手を教えてくれる。物語が書き手を導くように、動き出した行動が、考えていただけでは見えなかった道を示してくれます。

名言40【村田沙耶香】十歳で宇宙人の目を持った

At that time, I wanted to look at people with the eyes of an alien. I found that people were very strange creatures.

(村田沙耶香)

出典:Dezign Ark インタビュー「A Creature In My Own Right」
幼いころに小説を書き始めた動機を語った発言です。10歳で執筆を始めた当時、宇宙人の目で人間を観察したいという衝動があり、人間は奇妙な生き物だと発見した、と振り返っています。自分だけ違う気がする、という感覚は欠点ではありません。異星人の目で見れば、当たり前だと思っていたことが不思議なことに見えてくる。その視点の豊かさが、10歳の少女を作家にしました。馴染めなさは、観察者の資質でもあります。

名言41【村田沙耶香】怒りの感情が壊れた人間の実験室

I am like a human laboratory where the feeling of anger is broken.

(村田沙耶香)

出典:Louisiana Channel インタビュー「The Power of Stories Saved Me」(2022年)
デンマークのルイジアナ美術館でのインタビューで語られた言葉です。怒りを感じる能力が壊れてしまった人間の実験室のようなもの、と自分自身を表現しました。怒れない自分、感情の波が人と違う自分を不安に思う人がいます。けれど違うことは、壊れていることではありません。自分を実験室として観察する視点は、稀で誠実な強さです。感情の癖を批判せずに眺めてみると、そこには自分だけの反応の仕組みが見えてきます。

名言42【村田沙耶香】開けてはいけない箱を開けたかった

When I write my stories, there are these boxes deep inside people that you shouldn’t open, but I have always wanted to open them.

(村田沙耶香)

出典:Louisiana Channel インタビュー「The Power of Stories Saved Me」(2022年)
ルイジアナ・チャンネルのインタビューで、創作への衝動を語った言葉です。人の奥底にある、開けてはいけない箱を常に開けたいと思ってきた、という発言は、タブーに踏み込む作風を端的に表しています。触れてはいけないと感じている何かが、誰の中にもあります。箱に気づいてしまった自分を責める必要はありません。開けるかどうかは後で決めればいい。ただ、箱があると認めるだけで、その重さは少し変わります。

名言43【村田沙耶香】本当の真実はまだ蓋の下にある

The real truth is hidden under a lid and has not yet become words.

(村田沙耶香)

出典:Louisiana Channel インタビュー「The Power of Stories Saved Me」(2022年)
同じインタビューで、創作の動機を語った言葉です。本当の真実は蓋の下に隠れていて、まだ言葉になっていない。なんとなく苦しい、うまく言えないけれど何かがおかしい。そのもやもやを、言葉にできないからと封じ込めてしまうことがあります。けれど言葉にならないことは、本当ではないという意味ではありません。まだ蓋の下に眠っているだけ。「うまく言えないけど」という前置きは、立派な第一声です。

名言44【村田沙耶香】カメラの向きを変えれば普通が奇妙に見える

I wanted to illustrate how odd the people who believe they are ordinary or normal are. When you switch the direction of the camera, it is they who appear strange or odd.

(村田沙耶香)

出典:The New York Times インタビュー(Motoko Rich)
ニューヨーク・タイムズのインタビューで語られた言葉です。普通だと信じている人たちがいかに奇妙かを描きたかった、カメラの向きを変えれば彼ら自身が奇妙に見える、と語りました。自分だけ変なのかもしれない、と思うとき、普通の基準は誰かが決めたルールにすぎません。向きを変えれば、信じている側が窮屈に見えることもあります。変であることは欠陥ではなく、別の角度から世界を見ているということです。

名言45【村田沙耶香】物語の力が私を救った

My world of daydreams or the power of stories saved me, so I was able to survive.

(村田沙耶香)

出典:Louisiana Channel インタビュー「The Power of Stories Saved Me」(2022年)
ルイジアナ・チャンネルのインタビューで、幼少期の孤独を語った言葉です。学校での苦しい体験を、白昼夢の世界と物語の力が救ってくれた、と述べており、インタビューのタイトル「物語の力が私を救った」のもとになりました。しんどかった時期にひたすら本を読んだ、ゲームに逃げた、映画の世界に入り込んだ。それを現実逃避と責める必要はありません。逃げ場を見つける力は、弱さの印ではなく、生き延びるための技術の名前です。

名言46【村田沙耶香】空想の宇宙人を失っていたら死んでいた

If I’d been accused of escapism and laughed at, or ended up being ‘cured’ and losing my imaginary aliens, I’d have died.

(村田沙耶香)

出典:Literary Hub エッセイ「Making Friends with Imaginary Aliens」
Literary Hubに寄せたエッセイで、30人以上いた「架空の宇宙人の友人」について語った言葉です。現実逃避だと笑われたり、治療されて宇宙人を失っていたら死んでいただろう、と書き、その空想世界が文字どおりの命綱だったと述べています。奇妙な趣味も、誰にも理解されないこだわりも、ここまで自分を生かしてきた何かです。治さなくていい逃げ場は、大事に持ち続けていいものです。

名言47【村田沙耶香】学校は残酷で異物はすぐ見つかった

School was brutal. Foreign bodies were quickly spotted, persecuted by the group, and made objects of ridicule.

(村田沙耶香)

出典:Literary Hub エッセイ「Making Friends with Imaginary Aliens」
同じエッセイで、幼少期の学校生活を語った言葉です。学校は残酷だった、異物はすぐに発見され、集団に迫害され、嘲笑の的にされた。なじめない、空気が読めないと感じてきた経験が、胸の奥に残っている人がいます。当時の傷は本物で、たいしたことないと片づけなくていい。集団の中で異物と感じたことは欠陥ではありません。あの頃の自分を、今の自分がそっと肯定する。それは誰にも邪魔されない作業です。

名言48【村田沙耶香】普通は社会が許した唯一の狂気

普通というのは一種の狂気じゃないかと思います。社会が許している唯一の狂気を「普通」と呼んでいるだけじゃないかと

(村田沙耶香)

出典:村田沙耶香『生命式』(河出書房新社、2019年)
短編集『生命式』に収められた一節です。「普通」と「狂気」の境界は社会的に決められているにすぎない、という認識を示しています。なんで自分だけずれているのだろう、と落ち込むとき、普通とは社会がたまたま合意した一つのルールにすぎません。自分の感覚が変なのではなく、普通そのものが一種の幻なのかもしれません。ずれは個性であり、まだ名前のついていない視点です。

名言49【村田沙耶香】本能も道徳も存在しない

本能は存在しない。道徳も存在しない。それらは、常に変化し続ける世界が生み出した、偽りの感受性に過ぎなかった

(村田沙耶香)

出典:村田沙耶香『生命式』(河出書房新社、2019年)
短編集『生命式』に収録された言葉です。「本能」や「道徳」という絶対とされる概念を、変化し続ける世界が生み出した偽りの感受性にすぎない、と喝破した一節です。こうしなければならない、という感覚に縛られるとき、その当たり前は、時代や場所が変われば簡単に裏返るものです。自分の感受性を責めるより、「なぜ?」という問いを一日持ち歩いてみる。偽りの感受性を疑うことが、本物の自分に近づく一歩になります。

名言50【村田沙耶香】常識も本能も変わり続けている

常識とか本能とか道徳とか、確固としたものだとみんな言うけれど、それは本当じゃない。実際には、ずっと変わり続けている

(村田沙耶香)

出典:村田沙耶香『生命式』(河出書房新社、2019年)
短編集『生命式』の一節です。常識・本能・道徳を不変の真理とする通念を否定し、それらが実際にはずっと変わり続けている、という社会規範の可変性を指摘しています。常識的じゃない、と自分を責めたくなるとき、その常識は10年前とも10年後とも違うものです。違和感を押し殺さずにいると、ずれの中に、まだ言葉になっていない本音が見えてきます。確固としたものなど、はじめからなかったのかもしれません。

名言51【村田沙耶香】小さな嘘が蜃気楼を作る

みんな小さな嘘をつき続けていて、そうやって蜃気楼が作られていく

(村田沙耶香)

出典:村田沙耶香『生命式』(河出書房新社、2019年)
短編集『生命式』に収められた言葉です。社会の「常識」が、無数の小さな嘘の積み重ねによって生まれた幻像、蜃気楼にすぎないという認識を示しています。みんなはうまくやっているのに自分だけがおかしい、と感じることがあります。けれどSNSに映る平気な顔は、小さな嘘が重なった蜃気楼かもしれません。他人と比べてできた傷を、さらに自分への責めに変えなくていい。蜃気楼だと知るだけで、比較の重さは少し軽くなります。

\ 「普通」に染まりそうな朝のために /
常識も本能も変わり続ける、と村田沙耶香は書きました。周りに合わせているうちに自分の感覚が薄れていく朝に、ポケットAnchorのロック画面に届く一言が、立ち止まるきっかけになることがあります。アプリ独自のコレクションから、気分や目的に合わせてカテゴリを選べます。アファーメーションのカテゴリも用意されています。

名言52【村田沙耶香】書くことで何かを知りたい

書くことで何かを知りたいという気持ちの方が大きいです

(村田沙耶香)

出典:新刊JP ベストセラーズインタビュー『地球星人』(2018年)
『地球星人』のインタビューで執筆の動機を問われたときの答えです。表現したい、伝えたいよりも「知りたい」という探究心が先にあるという、作家としての根本的な姿勢を示しています。何を書けばいいかわからない、と手が止まるとき、書くことを「答えを整理するため」と考えなくていい。書いた先で初めて見えてくるものがある。知りたい、という好奇心だけを頼りに始めることが、一番確かな入り口になります。

名言53【村田沙耶香】醜さや卑怯さも面白いし美しい

人間の醜さや卑怯さも、面白いし美しいと感じていました

(村田沙耶香)

出典:Book Bang 村田沙耶香×西加奈子対談(2018年)
西加奈子との対談で、人間観を語った言葉です。ずるくて卑怯な気持ち込みで「それがあなたなんだよ」と認めてくれる、という文学への信頼とともに述べられ、人間の負の側面を美しいものとして受け入れる視座を示しています。こんな感情を持つ自分が嫌だ、と落ち込むこともあるでしょう。けれどそれらも、あなたという人間の一部です。これも自分だ、と一度うなずくだけで、嫌いな感情との距離は少し変わります。

名言54【村田沙耶香】当たり前になんでだろうと問い続けた

当たり前と思われていることも、それはなんでなんだろうと考えずにいられなかった

(村田沙耶香)

出典:Book Bang 村田沙耶香×西加奈子対談(2018年)
西加奈子との対談で、子どものころから続く疑問癖を語った言葉です。両親もシステムに乗せられているだけではないか、という幼少期の感覚が、現在の創作につながっていると述べました。なんでみんなは疑問に思わないのだろう、と感じて孤独になることがあります。けれど当たり前に「なんで?」と問わずにいられないのは、欠点ではありません。その問いの一つひとつが、世界を少しずつ広げていく力になっていきます。

名言55【村田沙耶香】小説を書くのは日常的なことだった

小説を書くって頭のいい人だけのことかと思っていたけど、日常的なことだった

(村田沙耶香)

出典:TOKYO FM プレスリリース インタビュー(2016年8月)
TOKYO FMのインタビューで、「書く決意をした恩師の言葉」として語られました。恩師である芥川賞作家・宮原昭夫の発言をきっかけに、執筆スランプを脱して再び書き始めた転機の文脈です。あれは特別な才能のある人だけのものだ、と諦めていることが、誰にでも一つはあります。けれど始める前に決めた「無理」は、ただの思い込みです。やってみたら意外と日常的なことだった、と気づく日は、始めた人にだけ訪れます。

名言56【村田沙耶香】小説を書く道具として世界に置かれた

I have been placed in the world, especially in Japanese society, as a tool for writing novels.

(村田沙耶香)

出典:Louisiana Channel インタビュー「The Power of Stories Saved Me」(2022年)
ルイジアナ・チャンネルのインタビューで、自身の立場を英語で語った言葉です。私は小説を書くための道具として、特に日本社会の中に置かれている。自分に向いていることなんてない、と思う朝があります。村田沙耶香は逆説的に「道具」という言葉で自分を定義しました。卑下ではなく、これのために自分は存在する、という覚悟の表明として。置かれた理由は、探しているうちに、少しずつ輪郭を持ってきます。

名言57【村田沙耶香】実体のないものへの恋愛感情

ふわふわしたものや肉眼では見えない存在、物体、または漫画の中のキャラクターに対する恋愛感情が幼少期からあった

(村田沙耶香)

出典:現代ビジネス 群像インタビュー「性愛の既存を問い、見つめ、捉えなおす」(2023年)
群像に掲載された、性愛をテーマにしたインタビューで語った言葉です。ふわふわしたものや、肉眼では見えない存在、漫画のキャラクターへの恋愛感情が幼少期からあったという告白です。自分の感じ方はみんなと違う、と黙ってきた時間を持つ人は少なくありません。けれどその変な感性を言葉にすることが、一人の作家の文学の出発点でした。誰にも言えなかった好きなものこそ、その人の個性の核に一番近い場所にあります。

名言58【村田沙耶香】飢餓感のない人を想像していた

自分が幼少期に感じた飢餓感が全くないような人を想像していました。たまに何でこんなに健全で、満たされていて、世界を信じているのかという人と会話をして、こんな精神構造の人がいるんだ、と思う

(村田沙耶香)

出典:現代ビジネス 群像インタビュー「タブーはなぜタブーなのか」(2023年)
群像のインタビューで、登場人物の造形について語った言葉です。自身の幼少期の飢餓感や欠乏感とは対極にある「満たされた精神構造」の人間に強い関心を向けていると述べました。なぜ自分だけこんなに苦しいのだろう、と感じるとき、他の人には当たり前のことが重くのしかかります。村田沙耶香はその飢餓感を欠点とは捉えませんでした。何に飢えていたかを知ることは、自分が何を大切にしてきたかを知ることでもあります。

名言59【村田沙耶香】連載はコントロールできなかった

連載というものがこんなにコントロールできないものだとは思わなかった

(村田沙耶香)

出典:集英社 文芸ステーション『世界99』刊行記念インタビュー(2024年)
2020年から2024年にかけて「すばる」で連載された最長作品『世界99』について語った言葉です。制御不能な創作プロセスへの正直な反応を示しました。計画どおりに進まないと、自分の力不足だと思いたくなります。けれど芥川賞作家ですら、連載はコントロールできないと感じたのです。どんな仕事も、始めてからしかわからないことがある。制御できないまま進むのも、立派な進み方です。

名言60【村田沙耶香】幼稚園でも学校でも地球人のふりをしていた

I, too, felt like I was pretending to be an Earthling at kindergarten and school.

(村田沙耶香)

出典:Literary Hub エッセイ「Making Friends with Imaginary Aliens」
Literary Hubのエッセイで、幼少期の自己認識を語った言葉です。幼稚園や学校で「地球人のふりをしていた」という感覚は、作品に繰り返し現れるテーマの出発点です。みんなと同じ顔で笑いながら、自分だけ違う惑星から来たみたいだと感じたことはないでしょうか。その感覚は孤独の印ではなく、鋭く見えているということです。地球人のふりを、休む。その休憩時間が、本当の自分を保つ場所になります。

名言61【村田沙耶香】見えない宇宙人に支えられている人は多い

I suddenly realized that the lives of many more children and adults than I’d thought were being sustained by invisible aliens.

(村田沙耶香)

出典:Literary Hub エッセイ「Making Friends with Imaginary Aliens」
同じエッセイで、気づいた普遍性を語った言葉です。自分だけの奇妙な体験だと思っていた「架空の宇宙人との共生」が、実は多くの子どもや大人に共通する生存戦略だった、と気づいたことを述べています。見えないものに支えられて生きている人は、思っているよりずっと多い。孤独な感じ方は、特別な異常ではありません。隣の人の心にも、見えないけれど確かにある何かが棲んでいます。

名言62【村田沙耶香】自分の性愛は自分のもの

自分の肉体は自分のもので、性愛も生き方の選択も一方的に与えられるものではなく、自分の性愛は自分のものなんだと、初めて思えました

(村田沙耶香)

出典:Business Insider Japan インタビュー
性愛と自己決定について語ったインタビューでの言葉です。身体も、性愛も、生き方の選択も、社会や他者から一方的に与えられるものではなく、自分のものなのだと初めて思えた、という確信を示しています。こうあるべき、という目に見えない圧力に黙って従ってきた経験は、誰にでもあります。自分のことを自分で決める権利は、誰かにもらうものではなく、最初から手の中にあるものです。

名言63【村田沙耶香】妄想の力で現実と折り合いをつける

大人になっても子どもの遊びをしている人、たとえば変身ベルトを今もつけている大人がいるとする。でも、異物として見なされたりバカにされてしまうのではなく、それを続けること、つまり妄想の力で現実と折り合いをつけている様子を描きたかったんだと思います

(村田沙耶香)

出典:クロワッサン オンライン『丸の内魔法少女ミラクリーナ』インタビュー
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』の創作意図を語った言葉です。36歳の会社員が魔法少女に変身する妄想で理不尽な職場を生き延びる、という設定を通じて、妄想する力を肯定的に描こうとしたと述べました。大人になったのだからと、頭の中の夢を片づけてきた人にとって、この言葉は救いです。妄想は現実からの逃走ではなく、現実と折り合いをつける技術でもあります。

名言64【村田沙耶香】登場人物が彼らの言葉で喋り出す

小説を書く時、最初に登場人物の似顔絵を描くんですけど、設定をつくっていくと、あるときから、女の子なり男の子なりが彼らの言葉で喋り出すんですよね

(村田沙耶香)

出典:カドブン インタビュー(KADOKAWA)
独自の執筆プロセスを語った言葉です。登場人物の似顔絵を描くところから始め、設定を作っていくと、あるとき彼らが自分の言葉で喋り出す。自分でも「この人はこんなことを言い出すのか」と驚くことの方が多い、と続けました。企画が煮詰まらないとき、完成形が見えないまま材料を並べ続けると、ある瞬間「この方向だ」と動き出す感覚があります。素材が勝手に喋り出す瞬間は、才能ではなく、手を動かし続けた人に訪れる必然です。

名言65【村田沙耶香】とにかく生き延びることが普遍の真理

そういう妙なポジティブさが私にはあるみたいで、とにかく生き延びることが普遍の真理のような気もするんです

(村田沙耶香)

出典:小説丸 著者インタビュー『地球星人』(2018年)
『地球星人』のインタビューで、自身のポジティブさについて語った言葉です。どんな過酷な状況でも「生き延びる」ことを絶対的な価値として捉える姿勢は、作品全体のトーンにも通じています。比べてしまう自分が嫌になることがあります。けれど、この場所にいるという事実だけで、普遍の真理はもう実践されています。妙なポジティブさと本人が呼ぶこの感覚は、特別な才能ではなく、誰でも借りられる考え方です。

名言66【村田沙耶香】誰かの怒りをなぞっているだけかもしれない

私は怒るのが苦手で、それが本当に自分から湧き出た怒りなのか、単に誰かの怒りをなぞっているのか、わからなくなるんですよね

(村田沙耶香)

出典:小説丸 著者インタビュー『地球星人』(2018年)
『地球星人』のインタビューで、自分の感情と社会から学習した感情の区別について語った言葉です。怒りが内側から来るものか、誰かから学んだものかという問いです。SNSを開くたび、誰かの怒りが流れてきて、気づくと同じ気持ちで怒っている。立ち止まると、これは自分の怒りかとわからなくなる。その戸惑いは鈍さではなく、誠実さです。怒る前に一呼吸おくだけで、湧き出た感情となぞった感情の違いが見えてきます。

名言67【村田沙耶香】水槽を作ると物語が勝手に動き出す

I feel as if I’m creating an aquarium. When I do different things, everyone in the aquarium will start to move, and the story unfolds automatically.

(村田沙耶香)

出典:Louisiana Channel インタビュー「The Power of Stories Saved Me」(2022年)
ルイジアナ・チャンネルのインタビューで、創作プロセスを水槽にたとえた言葉です。水槽という小説世界を作り、異なる要素を入れると、中の登場人物たちが自動的に動き始めて物語が展開していく、という独自の体験を描写しました。器を整えれば、中のものは自然と動き出す。机を片づける、音楽をかける、椅子に座る。場所を一つ整えるだけで、あとは自分が勝手に動き出すことがあります。環境が人を動かすのです。

名言68【村田沙耶香】コンビニ店員に性別は関係なかった

Gender was irrelevant to my existence as a convenience store employee.

(村田沙耶香)

出典:Louisiana Channel インタビュー「The Power of Stories Saved Me」(2022年)
ルイジアナ・チャンネルのインタビューで、コンビニ勤務について語った言葉です。コンビニ店員として働く中で、ジェンダーが自分の存在と無関係だったという体験は、主人公・恵子の造形につながっています。女だから、年齢だから、という言葉で自分の選択肢を狭めてしまうことがあります。やりたいことに集中しているとき、属性は無関係になっていく。何者かより、何をするかに意識を向けると、見える景色は変わります。

名言69【村田沙耶香】小説を読むと自分の真実が見つかる

When you read a novel, you might find something very true about yourself.

(村田沙耶香)

出典:Louisiana Channel インタビュー「The Power of Stories Saved Me」(2022年)
読書の意義について語った言葉です。小説を読むことで、自分自身についての「非常に真実なもの」を発見できるという読書論を示しています。自分のことなのにうまく説明できない、というもどかしさを感じたことはないでしょうか。小説の登場人物のひと言が、自分の中の名前のない感情に名前をくれることがあります。一冊の本を開くことは、自分を理解するための、遠回りに見えて一番近い道かもしれません。

村田沙耶香が描いた作品の名セリフ

名言70【古倉恵子】異物は静かに削除される

正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく

(古倉恵子)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子の視点で語られる地の文です。恵子は幼いころから周囲に「奇妙」とみなされ、コンビニという徹底して正規化された場所でだけ、まっとうに機能できる人間として生きています。その恵子が見つめる「正常な世界」は、声を荒らげることなく、合わない人間を静かに取り除いていく。削除という乾いた言葉に怒りも悲しみも乗せない語り口が、かえって世界の強引さを際立たせます。

名言71【古倉恵子】朝になればまた店員になれる

朝になれば、また私は店員になり、世界の歯車になれる。そのことだけが、私を正常な人間にしているのだった

(古倉恵子)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
コンビニ店員として働くことだけが、自分を「正常な人間」にしてくれる。主人公・古倉恵子が一日の始まりに抱くこの認識は、『コンビニ人間』の地の文として響いています。反復の中でだけ、恵子は世界の歯車としての手触りを得られる。歯車という言葉は普通なら没個性の象徴ですが、恵子にとっては社会へ接続するための、たった一つの装置です。役割に寄りかかって生きることの切実さと安らぎが、同時に描かれています。

名言72【白羽】世界は縄文時代なのかもしれない

世界は縄文時代なのかもしれないですね。ムラに必要のない人間は迫害され、敬遠される

(白羽)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
『コンビニ人間』で恵子の勤めるコンビニに入ってくる男、白羽のセリフです。狩りをしない男、子を産まない女は集落から追放される。白羽は現代社会を「縄文時代」のムラにたとえ、役に立たない人間が迫害され、敬遠される論理は何も変わっていないと主張します。恵子が静かに観察するのに対し、白羽はその構造に怒りと恨みを抱えています。ムラの基準で測られ続けることへの苛立ちが、この皮肉な時代認識に凝縮されています。

名言73【白羽】多様性という綺麗ごとの裏側

現代は機能不全世界なんですよ。生き方の多様性だなんだと綺麗ごとをほざいているわりに、結局縄文時代から何も変わってない

(白羽)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
前のセリフに続く、白羽の社会批判です。生き方の多様性という言葉がもてはやされているわりに、現実は縄文時代から何も変わっていない。白羽は現代を「機能不全世界」と呼び、綺麗ごとと実態のずれを言葉荒く突きつけます。彼自身はその構造への恨みを抱え続ける人物で、主張は被害者意識と一体になっています。それでも、理想を掲げる社会がなお異物を排除し続けるという指摘には、聞く者をたじろがせる正しさが混じっています。

名言74【古倉恵子】マニュアルの外で普通になる方法がわからない

完璧なマニュアルがあって、『店員』になることはできても、マニュアルの外ではどうすれば普通の人間になれるのか、やはりさっぱりわからないままなのだった

(古倉恵子)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
『コンビニ人間』の古倉恵子の地の文です。完璧なマニュアルがあれば「店員」にはなれる。けれど、マニュアルの外に出た途端、どうすれば普通の人間になれるのかがさっぱりわからない。恵子はコンビニの中では完璧に機能する一方、仕事を離れた日常の場面では、何を話し、どう振る舞えばいいのか見当がつきません。マニュアル化された行動と、内側に残り続ける不適合の対比が、この一文に鮮やかに表れています。

名言75【古倉恵子】普通の人間という架空の生き物を演じる

皆の中にある『普通の人間』という架空の生き物を演じるんです

(古倉恵子)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
古倉恵子が、自分が普通に見えるために取っている戦略を語る場面の言葉です。恵子は周囲の人間の話し方や振る舞いを観察し、それを組み合わせて「普通」を作り上げている。皆の中にある「普通の人間」とは架空の生き物にすぎない。演じているのは自分だけではないという恵子の洞察は、観察から生まれたものです。誰もがどこかで演じているのだとすれば、演じきれない正直さのほうが、本体に近いのかもしれません。

名言76【古倉恵子】変なものには土足で踏み入っていいと皆が思っている

皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている

(古倉恵子)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
『コンビニ人間』の古倉恵子の視点で語られる地の文です。恵子は長くコンビニのアルバイトを続け、恋愛も結婚もしていない。それだけで周囲は「なぜ?」と原因を解明しようとし、プライベートへ当然のように踏み込んできます。異物とみなされた人間には説明責任があるかのように振る舞う社会の暴力性を、恵子は怒るでもなく、ただ観察として記述する。土足という言葉の生々しさが、善意の顔をした介入の重さを伝えています。

名言77【古倉恵子】人間である以上にコンビニ店員

私は人間である以上にコンビニ店員なんです

(古倉恵子)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
古倉恵子が、自分のアイデンティティを宣言する言葉です。周囲が恵子に期待するのは、コンビニを離れて「普通」の人生へ戻ること。けれど恵子にとって、コンビニ店員という役割は、人間という抽象的なくくりよりも先にある、具体的な存在の形でした。普通なら「店員である前に人間だ」と言うところを、恵子は逆に生きている。根を張る場所を持つ人の強さが、短い一文に凝縮されています。

名言78【古倉恵子】大人はほっとしたようだった

必要なこと以外は喋らず、自分から行動しないようになった私を見て、大人はほっとしたようだった

(古倉恵子)

出典:村田沙耶香『コンビニ人間』(小説・文藝春秋)
幼いころの古倉恵子が、周囲に「奇妙な言動」を問題視されたあと、自分から行動することをやめていく経緯を語った地の文です。そんな恵子を見て、大人たちはほっとした。皮肉なこの一節には、矯正ではなく無害化を求める社会の姿が、子どもの目を通して映されています。ほっとされることと、認められることは違う。黙ることで守られてきた恵子の静けさの奥に、押し殺された何かがあることを、読者は後になって知ります。

名言79【奈月】社会に言わされた言葉を自分の言葉だと思い込む怖さ

私がほんとうに怖いのは、社会に言わされた言葉を自分の言葉だと思い込んでしまうことだ

(奈月)

出典:村田沙耶香『地球星人』(小説・新潮社)
『地球星人』の主人公・奈月が、自己と社会の関係について内省する言葉です。奈月が本当に怖いのは、迫害されることではなく、社会が強いる言葉や価値観を、いつの間にか自分のものだと錯覚してしまうこと。この恐怖は作品全体の主題を凝縮しています。安定が大事、もっと頑張らなければ。そうした声が自分の声に聞こえ始めたとき、奈月の恐れは他人事ではなくなります。問い直すこと自体を、奈月は最後まで手放しません。

名言80【奈月】社会は恋愛をするためのシステム

社会というのは、恋愛をするためのシステムだったのです。恋愛できない人たちは、恋愛のふりをしなくてはいけなかった

(奈月)

出典:村田沙耶香『地球星人』(小説・新潮社)
『地球星人』の奈月が、社会の仕組みを冷静に観察する言葉です。社会とは恋愛をするためのシステムであり、恋愛できない人間は、排除されないために恋愛のふりをしなければならない。奈月自身がそのふりを強いられる側にいるからこそ、この分析には体温の低い切実さがあります。恋愛規範を「システム」と呼び、個人の欠陥ではなく構造の問題として捉え直すこの視点は、作中の奈月を支える数少ない足場の一つです。

名言81【奈月】洗脳されたほうが楽になれると思っていた

洗脳されてしまったほうが楽になれると思っていた。苦しまなくていいから

(奈月)

出典:村田沙耶香『地球星人』(小説・新潮社)
社会規範に適応できない奈月が、むしろ洗脳されてしまいたいと望む、逆説的な心理を表した言葉です。異質なままでいることの苦しさに比べれば、洗脳されて何も疑わなくなるほうが楽だ。苦しまなくていいから、という一言が切実です。『地球星人』の奈月は、この願いと、それでも染まりきれない自分との間で揺れ続けます。楽になりたい誘惑と、自分でいることの痛み。その両方を正直に書いたからこそ、この言葉は胸に残ります。

名言82【奈月】普通の人は自分たちの普通に守られている

普通の人たちは、自分たちの普通に守られているから、そうでない人たちを簡単に裁けるんです

(奈月)

出典:村田沙耶香『地球星人』(小説・新潮社)
『地球星人』の奈月が、「普通」の人間が持つ特権性を指摘する言葉です。普通の側にいる人は、自分の普通さに守られているから、そうでない人を安全な位置から裁くことができる。奈月はその裁きを受け続ける側として、この構造を見抜いています。「気にしすぎだよ」という一言が深く刺さるのは、裁く側が裁かれたことがないからかもしれません。守られていることに気づかない人の無邪気さを、奈月は静かに言葉にしています。

名言83【奈月】道具になる勉強と繁殖器官になるためのいい子

まず、いい成績をとって道具になるための勉強をしなければならない。次に、繁殖器官になるために、いい子にしていなければならない

(奈月)

出典:村田沙耶香『地球星人』(小説・新潮社)
『地球星人』の奈月が、自分を「ポハピピンポボピア星人」だとみなす視点から、地球のシステムを解析する言葉です。いい成績を取って道具になる。いい子にして、町のための繁殖器官になる。子どもが育てられる目的をこの二つに還元してしまう冷徹さは、宇宙人の目を借りた奈月だからこそ可能な分析です。いい大学、いい会社、結婚という筋書きを、誰が書いたのかと問い直す奈月の目は、読者の足元にも向けられています。

名言84【奈月】生き延びろ、なにがあっても

生き延びろ。なにがあっても

(奈月)

出典:村田沙耶香『地球星人』(小説・新潮社)
社会に適応できない奈月が、自分自身に言い聞かせる言葉です。『地球星人』全体を貫くのは、どんな手段を使っても生き延びるという、むき出しの生存の宣言。奈月に必要なのは勝つことでも、理解されることでもなく、ただ生き延びること。短い命令形の中に、追い詰められた人間が自分を支えるための、最低限で最強の言葉が置かれています。限界を感じる人にとって、この一言は装飾のない支えになるはずです。

名言85【奈月】自由を与えられたのに自由が得意ではない

I’ve been given my freedom, but I’m not any good at being free.

(奈月)

出典:村田沙耶香『地球星人』(小説・新潮社)
『地球星人』に登場する奈月の言葉です。社会のシステムから「自由」を与えられたはずなのに、その使い方がわからない。戸惑う奈月の姿には、規範なしには生き方を見つけにくい人間の依存性が映っています。好きにしていいと言われた瞬間に固まってしまうのは、ずっと正解に合わせることを求められてきたからです。奈月のこの告白は、自由とは与えられるものではなく、不器用に練習していくものだと教えてくれます。

名言86【奈月】普通さは感染する

Normality was contagious, and exposure to the infection was necessary to keep up with it.

(奈月)

出典:村田沙耶香『地球星人』(小説・新潮社)
『地球星人』の奈月が、「普通」を感染症にたとえる言葉です。普通であり続けるには、普通に感染し続ける必要がある。周囲に合わせているうちに感覚が薄れ、何が好きで何が嫌だったかが曖昧になっていく。その過程を、奈月は感染として冷静に描写します。染まることは自然な成り行きではなく、意識しないうちに進む感染だと知れば、逆の選択も見えてくる。普通から少しずれる練習は、この一文を知った人から、静かに始まります。

まとめ

村田沙耶香の言葉を86件並べてみると、一つの姿勢が浮かび上がります。普通を疑い、善と信じられているものの強度を確かめ、それでも世界を愛している。宇宙人の目で人間を眺めながら、刃物の刃先は自分に向け続ける。その誠実さは、作品の登場人物である古倉恵子や奈月にも、形を変えて受け継がれています。
自分だけずれている気がして苦しいとき、この記事の中のどれか一つが、同じ場所に立っている人の声として届いていれば嬉しいです。普通になろうとしなくても、生き延びることはできる。村田沙耶香の言葉は、そのことを、説教ではなく観察として教えてくれます。

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