
孫正義の名言「応用編はこれから」に学ぶ、霧を抜けた先の覚悟
「これからがほんとうにおもしろくなる。応用編でどんどん伸ばしていきたい」
この名言は、ソフトバンク創業者・孫正義氏が、ADSL事業で400万回線を突破し、年間900億円のキャッシュフローが見えた瞬間に語った言葉である。多くの経営者なら「成功」と安堵する局面で、彼はさらなる挑戦を宣言した。
本記事では、井上篤夫著『志高く 孫正義正伝 新版』(実業之日本社文庫)に記されたこのエピソードをもとに、孫正義の経営哲学と、成功を起点に変える思考法を紐解いていく。
ADSL400万回線突破、孫正義が見た次の景色
2004年3月、ソフトバンクのADSLサービスが400万回線を突破した。商用サービス開始からわずか30か月での快挙である。パラソル部隊と呼ばれた街頭キャンペーン、「世界一安く、速い」という明快なメッセージで、驚異的な速度でシェアを拡大してきた。
しかしその道は平坦ではなかった。2003年初頭に200万回線を突破した時点でも、損益分岐点に到達できるか、技術的に持続可能か、サポート体制が機能するか、すべてが霧の中だった。不確実性の中を走り続けた末に、ようやく輪郭が見え始めた瞬間。
多くの経営者なら「ひと息つく」場面だろう。だが孫正義の頭の中では、すでに次の構想が動き始めていた。
成功を起点に変える、孫正義の拡張思考
孫正義の思考には、明確な段階的拡張の論理がある。
- 成功を「ゴール」ではなく「見通しが立った起点」として扱う
- 利益の確保を確認したうえで、次の投資領域を探る
- インフラが整ったら、その上に載せる「コンテンツ」へ視点を移す
- 基礎編で手応えを得たら、応用編で深く広く掘り下げる
彼にとっての「霧が晴れる」とは、安心して立ち止まる合図ではない。それは「ここから本気で走れる」という号砲なのだ。
名言に込められた真意、「応用編はこれから」が示す未来志向
「これからがほんとうにおもしろくなる。応用編でどんどん伸ばしていきたい」
この名言には、孫正義の「確信は走りながら育つ」という信念が表れている。400万回線突破という数字は、多くの企業にとって十分な成果だ。年間900億円のキャッシュフローが見える段階で、誰もが「ここで一度固める」と考えるだろう。
だが孫は違った。彼にとっての成功は到達点ではなく、未来を掘り当てる行為だった。この名言の「応用編」とは、単なる事業拡大ではない。インフラという土台の上に、コンテンツという文化と価値を載せていく構想である。それは技術者ではなく、思想家としての視点だった。
成果が出た瞬間こそ、次を始めるとき
私たちは「うまくいった瞬間」にどう向き合っているだろうか。
成果が出たとき、多くの人はそこで満足し、守りに入る。だが孫正義の姿勢は、それとは真逆だ。彼は霧が晴れた瞬間に、さらに深く掘り下げる決断をした。
現代のビジネス環境において、この姿勢はますます重要性を増している。テクノロジーの進化、市場の変化、顧客ニーズの多様化。すべてが加速する中で、立ち止まることは後退を意味する。
私たちが問うべきは「今の成果で十分か」ではなく、「この成果を起点に、何が始められるか」なのだ。孫正義のこの名言は、成功を再定義する思考の転換を促している。
今日の行動指針
成果は終わりではなく、次の挑戦を始める許可証である。
孫正義の意思決定を読み解く6つの視点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 背景・状況 | ADSL400万回線突破、年間900億円のキャッシュフロー確保が見えた段階 |
| 課題・障壁 | 成功の後に訪れる「満足による停滞」の誘惑 |
| 判断・決断 | 利益確保を確認したうえで、さらなる拡張と深化を選択 |
| 構想 | インフラの上にコンテンツを載せ、応用編で価値を広げる |
| 本質 | 成功は終わりではなく、次の挑戦を始める起点である |
| 今日の心得 | 霧が晴れたら走り出せ。見通しは、さらに進むための条件だ |
名言が教える、霧を抜けた者だけが知る加速の美学
孫正義は霧の中を走り続けた。そして霧が晴れた瞬間、彼はさらに加速した。その姿勢には、挑戦を止めない生き方の本質がある。
成功とは到達点ではなく、より深く、より広く進むための確信だ。私たちもまた、手応えを感じた瞬間にこそ、次の一歩を踏み出す勇気を持ちたい。
見えてきたからこそ、もっと遠くへ。それが、孫正義がこの名言を通じて体現した「志高く」の意味なのかもしれない。
この名言についてもっと知りたい方へ
本記事で紹介した孫正義の名言は、井上篤夫著『志高く 孫正義正伝 新版』(実業之日本社文庫)に収録されています。孫正義の挑戦の軌跡と経営哲学をより深く理解したい方は、ぜひ原著をお読みください。












